1番


肌寒さがようやく薄れてくるころ。

御所の水辺の一角に水仙の花が開く。

ひっそりと美しい花は人に気づかれることが少なかった。
人々の視線は咲き始めた桜に注がれていたからだ。



その水辺に一人、たたずむのは薄紫の豪奢な衣装の男性。


ひそやかに、だが大きく花開く水仙に目を奪われていた。


そんな彼の姿を見つけたもう一人の影。


「ここにおいででしたか…。右大臣。」

「お前か。」

右大臣は少し嬉しげに声をかけてきた人物に視線を向けた。

「院への行幸はまもなくだというのに。
 貴方は相変わらずだ…。」

「そんな私をわざわざ見つけに来るお前も相変わらずだな、僧正。」

苦笑しながら、右大臣は僧正の元に寄った。


「院への行幸に呼ばれ忙しい身であろうに。
 お付は撒いたのか?」

「不本意ではありますが…。」



僧正の頬にそっと触れながら、右大臣は常ならぬ優しい瞳を見せた。

この瞳に…ずっと繋がれている…。


僧正は空気をこばむように右大臣の手からふと逃れる。


そして水辺に視線を向けた。


「水仙をごらんになっていたのですか。」

「ああ。ここに咲くことはあまり知られていないようだな。」

「あなたは水仙がお好きですね。」


「そうだったか?」


「ええ…元服されて間もない頃に時折こちらに参られているのを何度か…。」

そこまで言って、僧正ははっと口をつぐんだ。

その様子に右大臣は口元を緩ませる。


「その頃も…?」

「…失言でした。お忘れください。」


「そうか。」


くすくすと声を立てて右大臣は笑う。
僧正もつられて苦笑した。



「…西洋では…。」
ひとしきり笑った後、右大臣は思い出したように言葉をつむいだ。


「…?」


「この花は自らを愛しすぎた花精の変化した姿だと言われているそうだ。」


「大臣…。」


「お前を限りなく愛しく思う私はどのような花になるのだろうな。」



「…。」


僧正は言葉を飲み込むように右大臣の目を見つめた。



「私は…。」



「そしてお前はどのような花になるのだろうか…?」



「大臣…。」





ひとしきり強い風が二人の間を通った。



「…このような場所でそんな顔をするでない。
 困らせたようだな…。」


「いえ…そんな。」


「主上の行幸もまもなくだろう。 
 行くとしよう。」


そう言うと。
右大臣は身を翻し歩みだした。



その時。



「…!」


僧正は右大臣の背に寄り添った。



「僧正…?」




「…生まれ変わって貴方が花となるなら…私も貴方の隣で花となりましょう。」


「…。」



それだけ言うと。


僧正は右大臣の背から離れ。



二人は言葉もなく別れていった。



互いに最も相手を思うなら 互いの傍で花となろう。

その望みだけが 貴方との愛の証なのだ。


一滴、花のように雫をこぼした。



この世で1番に愛した貴方の1の人とはなれないわが身なのだから。



                                 end



先日のオエチャにて出てきましたネタです。
水仙をバックに右大臣伯爵によりそうVH僧正。
最後はむりやりお題にくっつけた感がありありですが…お気になさらず。

僧正は右大臣ごっつ好きなんですね。


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