「「オレだっててめーなんざ大ッキライだ!!!」」
今日もいつも通り。売り言葉に買い言葉。
「「やれやれ…。」」
こちらもいつも通りの、ため息。
ウチのこ
「…で、今日もシケた面見せてるわけか。」
「ほっとけ…。」
昼休みの十二支高校の屋上。
今日も1年生の猿野天国は盛大に落ち込んでいた。
理由はいつも通り。
同じ野球部の犬飼冥と朝練習の時間に大喧嘩をしてしまったからだ。
きっかけは大したことじゃない。
というか、思い出すことも出来ないくらいささいなことで。
小さな一言に、大きく反応して大喧嘩に発展させてしまったのだ。
もっとも、大きくしてしまうのも…。
「愛ゆえってやつか?」
沢松は苦笑しながら呟く。
「うっせえ…。」
沢松の声に、天国は悪態をつきつつもぼんやりと応えた。
しかし、「愛」の部分を否定してはいない。
どうやら多少は、本人の自覚も進んでいるらしい。
3歩進んで2,9歩下がるペースではあるが。
(まあ、それも仕方ないか…。)
そう思いつつ、沢松はふと、グラウンドに視線を落とす。
すると。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド
これも恒例となった地鳴りが響いていた。
################
「犬飼キュ〜〜〜ン、今日こそ愛のお弁当食べて〜〜〜v」
「ついででいいからこの婚姻届にハンコ押して〜〜〜〜v」
「……………………!!!!」
日々要求が激しくなってくるおっかけの面々から、鬼気迫る表情で、犬飼は逃げていた。
他人は羨ましがるが、犬飼にとっては迷惑な事この上なかった。
それでなくても、今日のケンカの原因になったのはこのかしましい女子の群れだったし。
一人にして欲しいと言うのが、今の犬飼の最も正直な気持ちだった。
その時、相棒である辰羅川が、先にある校舎の端を指差す。
そこに入って追っかけを撒けというアドバイスだった。
これもいつものことで、辰羅川のアドバイスは非常に正確だったから。
犬飼は、彼の指示に従った。
そして、予想通りに女子の群れを撒く事ができたのだった。
「はーーーーっ…。」
「長いため息ですね。お疲れ様でした。」
一息ついた時に現れたのは先程アドバイスをくれた辰羅川だった。
「…悪ぃ…。」
「いえいえ、他ならぬ犬飼くんの事ですからね。」
辰羅川は笑いながら犬飼にコーヒー牛乳を手渡した。
手渡されたものを遠慮なく頂いた犬飼は、その場に座ると。
今朝からやや落ち込み気味だった気持ちを思い出した。
「はあ…。」
朝の「あいつ」の台詞を思い出す。
『いつも愛情いっぱいもらってて羨ましいね〜。』
『…ふん、一方的に押し付けられる愛情なんて迷惑なだけだろ。』
その言葉に、「あいつ」は傷ついた顔をして、次の瞬間に怒ってた。
ホントは、自分も自分の言葉に傷ついていた。
「あいつ」はあの女子マネを「一方的に」…想ってる。
オレは、「あいつ」を「一方的に」想ってる。
オレはあいつの想いを否定して。
オレは自分自身の想いもついでに否定した。
「…で、いつまで膝かかえてるつもりですか?
デカい図体して。」
辰羅川は、珍しくもぞんざいな言葉を犬飼に投げ付けた。
「…あのな…。」
ほっとけよ、と犬飼は顔を上げた。
辰羅川は、その顔が驚愕に変わるのをしょうがないなと笑いながら見た。
「せっかく相手から謝りに来たと言うのに、ほったらかしですか?」
そこにいたのは、所在無さ気な顔をした、「あいつ」。
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「で、どうだったんだ?」
「…一応口で謝ってましたよ。残念ですが…それだけですね。」
はあっと二人同時にため息をついた。
「二人とも自分の気持ちには気づいたんだけどな〜…。」
「相手の気持ちを感じる余裕はまだまだないですねえ。」
「あーんなあっつい視線受けてるってのに…。」
「全くですね。ウチのはそれに加えてまだ勘違いしてますし。」
被保護者について語る保護者二人は、顔を見合わせて。
「辰羅川はいつごろくっつくと思う?」
「…さあ?沢松君はどう思われますか?」
「…卒業までにカタがつけば上出来かと…。」
「…同感ですね。」
それは自分たちの願望でもあるかもしれない。
仕方ないなと思いながら、でも。
近づいたり離れたり、辛そうで、でも幸せそうな二人を見ているのは。
大好きだと思うから。
end