貴方が想っている人


時折どこか遠くを見てる。
そんなお前に気づいたのはいつだったのか。


「なあ猿野。」

「はい?」

「…いや、なんでもね。」

(…まただ…。)

久しぶりに重なった休日、久ボウ白春は恋人の猿野天国を映画に誘った。
映画は面白かったし、猿野は楽しそうにしている。

そう見えるのに。

(…またどっか見でるング…。)


付き合うようになってから気づいたが。
天国はどこか遠くを、時々見ている。


自分が傍にいるのに、自分じゃないどこか、誰かを。


「変っすよ久ボウ先輩。
 オレ、何かしました?」

「いや、そういうんでねえングよ。
 映画…面白かったべな。」

聞きなおす勇気は出なくて、話題を変えた。
そんな自分の弱さが少しイヤになる。

けど。

「うん、すごく!」

笑った天国の顔にどきりとする。

普段は奇行が目立ち、気づかれにくいが。
天国はかなりハンサムというか、整った顔立ちをしている。
その顔で、華のように笑う。


それがどれほど魅力的か。

そうやって視線をくれることが、どれだけ嬉しいか…。
天国には分からないだろうな、久ボウはそう思った。


「ねえ、久ボウ先輩。」

「え?」

ふと、天国が話し始めた。
驚いたように久ボウが顔を上げると、天国はまっすぐ彼の目を見ていた。


「…ウェルニッケ・コルサコフ症候群て病気知ってます?
 アルコールとか栄養不良が原因で眼球運動が障害起こしたり作り話したりする病気。」

その話題に、久ボウは少なからず面食らう。
天国の意図が見えない。

「…知らないング、何でだべ?」


天国は、自嘲したような笑みを浮かべて話を続けた。

「その病気ね。一度向いた方向から視線をはずせなくなるんですよ。
 こうやって、ずっとね。」

じ、っと天国は久ボウの目を見つめた。


その視線の熱さは、感じたことのないもので。
本当に自分を見ているのか…そう思ってしまった。


(そうやって、誰を見てる?)


「…オレね、この病気の話を聞いた時、ちょっとだけ思ったんです。
 羨ましい、とか。」


「…え?」


「別に病気になりたいとかじゃないんですよね。ただ…。」


「ただ?」



「そんな風に見つめてくれたなら…。」



最後の言葉は、小さかったが。


久ボウの耳に確かに残った。


久ボウは何も言わず天国の手を握った。


(誰を思ってる…?

 オラがいるのに…。)


知ってしまった。
自分たちが二人ともたまらない片想いをしていることを。



「…ごめんなさい。変な話をして…。」

「……猿野…オラは…。」



それでも、離したくない。
やっと捕まえたこの手を。



その日二人は帰るまで一言も話さなかった。



#########


久ボウが、天国の思い人を知ったのはそれから1年ほどたったあとのこと。


久ボウに残された手紙にはたった一文。



ありがとう あなたのこと 好きでした。




それは優しくて残酷な お前らしい言葉だった。



                                    end


ろくにプロット立ててないのがまるわかりですね。
ちなみに天国の好きだった相手は…決まってません。

数年前に描いたラクガキがもとです。
なぜか白春とデートしてた絵で、なに考えて書いてたのかわかんない雰囲気が出てました。

そのため文章もわかりませんね。
あんま痛くないし…。精進します(T▽T;)


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