Heaven's Door
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「はあ…。」
「落ち着いたか?啓太。」
食堂での事故から数時間。
部屋で休んでいる啓太に、和希が訪問した。
「和希…。」
「今いろいろと調べ終わった所だよ。
…やっぱりあの鉢植えが落ちた原因は、不安定だったからみたいだな。」
「そっか。…ホントびっくりした〜〜。」
はあ、と安堵の息を漏らす啓太の額に、和希は軽く触れた。
「無事でホントに…よかった。」
和希はふわりと啓太の身体を抱きしめた。
「和希…?」
「ごめんな、絶対に…啓太のこと護るから…。」
「カズ…兄…?」
和希は啓太を抱きしめ、決意を新たにした。
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啓太の部屋を出た和希は、一息つくと、気になっている事を確かめようと思った。
その時。
「和希。」
先程まで現場で何か考えているようだった冬紀が現れる。
「冬紀…丁度よかった。
君に話があるんだ。…ついてきてくれる?」
「…。」
冬紀は、少し黙ってから…
頷いた。
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翌朝。和希は私用で欠席していた。
啓太は昨日に引き続いての会議とは聞いてなかったので、少し不思議に思っていたが。
理事長の事情をあまり詮索してもよくないだろうと思い。
考えない事にした。
そして、放課後。
「冬紀、昨日の約束どおり学校の案内するよ。」
「ありがと。…和希が休みで、残念だね。」
「うん、まあ…あいつ、色々と忙しいみたいだ…し。」
啓太もまさか和希がこのベルリバティスクールの理事長で、その仕事が忙しいとは言えず。
曖昧に笑った。
だが、冬紀もそれ以上詮索する事はなかった。
「さて、今日はどこを案内してくれるの?」
「そうだな…。」
「会計室はいかがですか?伊藤くん。」
「え?あ、七条さん!」
小柄な二人の背後に現れたのは、184pの細身。
会計部の七条臣だった。
「会計室…?」
「初めまして、北野くん。
会計部の七条臣といいます。
伊藤くんの友達ですよ。」
(友達って…。)
啓太は七条の言葉に苦笑する。
確かに先輩後輩ではあるが、関係を一言であらわすなら…それに近いだろう。
だが、七条はどうも友達と言う言葉が似合わない男なのだ。
冬紀はというと、その言葉によどむことなく七条に笑みを返した。
「そうなんですか。
一年の北野冬紀です。よろしく。」
そう言って、手を差し出した。
その笑顔と青い瞳は、一瞬七条のうちにあった嫉妬を忘れさせた。
そして、少し思ったことを七条には珍しくそのまま口にした。
「…君はハーフですか?
随分綺麗な青い瞳をされているんですね。」
「あ、いえ…クォーターです。
祖父がフランス人ですから。」
「あれ、そうだったんだ?」
冬紀の話に、啓太がふと声を漏らした。
そういえば、カラーコンタクトにはない綺麗な青い瞳。
気づいてはいたがあまり驚いては居なかった。
それだけ冬紀の顔立ちに溶け込んでいたから。
七条は、 自分も日本人以外の血を持っているためか、どこかその青い瞳に懐かしさを感じた。
「そうでしたか。いきなり不躾な質問をしてすみませんでした。
よろしければ、伊藤くんと会計室の方に足を向けてはいかがですか?北野くん。」
「そうですね…。啓太はいい?」
「あ、冬紀がいいならオレはかまわないよ?」
「じゃあ、お邪魔します。」
「はい、どうぞ。」
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「…君か。啓太以来の転入生というのは。」
会計室では、女王陛下(違)西園寺郁が座っていた。
一息ついていたところなのだろう、そばにお気に入りのアップルティが置いてあった。
「…はい。北野冬紀です。
よろしくお願いします。」
冬紀は西園寺を見た瞬間、眼を見開く。
啓太は冬紀も西園寺の美貌に驚いたのだろう、と思い。
無理ないな、とひとり納得していた。
「ああ。…どうかしたか?
人を見ていきなり驚いた顔になるとは。」
「あ、失礼…しました。
少し…その知っている人に似てるなって、思って。」
啓太が思っていたこととは違うが。
とりあえず顔に驚いていたのは間違いないらしい。
「そうか…。
それにしても、君も啓太と同伴とはなかなか知能犯だな。」
「?西園寺さん、どういうことですか?それ。」
西園寺の言葉に、啓太はどういうことなのか分からず質問した。
「分からないですか?伊藤くん。」
西園寺と二人で意味深な笑みを浮かべる七条だが、やはり啓太はよく分かっては居なかった。
「ふふ、啓太ってやっぱり人気者だなってことだよ。
そうですね?西園寺さん。」
「……。」
冬紀の言葉に、西園寺は一瞬口を閉ざし。
次の瞬間、苦笑した。
「やはり知能犯だな。君は。」
「ほめ言葉として受け取らせてもらいますよ。」
「???あの〜オレ、やっぱり分からないんですけど…。」
いつの間にか分かり合ってる感のする二人に、一人取り残された気分の啓太に。
西園寺と七条が言った。
「分からないか?啓太。」
「君が一緒だと僕たちは彼も部屋に入れないわけにはいかないからですよ。」
「え…。」
二人の言葉に、啓太はやっと意味がわかったらしく。
頬を真っ赤に染めた。
「ホントに。可愛い人ですね、伊藤くんは。」
そういいながら、七条は楽しそうに笑った。
「…では、お二人の紅茶も用意して来ましょうか。」
「あ、オレも手伝います!」
「そうですか?ありがとうございます。」
七条は啓太と二人きりになれることを密やかに喜んでいた。
「…臣。啓太に手を出すなよ?」
「……出来る限り善処しますよ。」
西園寺もしっかり釘を刺すことを忘れては居なかった。
そして、二人がその場から少し姿を消す。
そこに西園寺と冬紀の二人だけが残った。
「いい子ですね、啓太は。」
「そうだな…。ところで、北野。」
「はい?」
西園寺は少し声のトーンを落として。
しかし、はっきりと言った。
「何故君がここにいるんだ?
北野…いや、蒼野(あおの)冬紀。」
「……!!」
その言葉に、冬紀は凍りついたように表情を固めた。
To be Continued…。