遥かなるあなたに
二人は撮影所のビルを出て、駐車場へ。
2
学校から天国の仕事場である撮影所へ直行した芭唐は、目当ての人物の腕を掴んだ。
「帰ろーぜ。天国。」
「あ?って、お前まだ挨拶…。」
「んなもんどーでもいいから。」
意外と律儀な所もある天国は、スタッフへの挨拶も欠かさない。
しかし、今の芭唐にはそんなことはどうでもよかった。
今朝見た夢のせいか。
今日は一刻も早く二人になりたかった。
「おい、待てよ芭唐…。」
「おい猿。」
強引な芭唐に不思議そうな天国の声の横から、芭唐にとって不愉快極まりない声が押し入ってきた。
犬飼 冥。
天国と同じ事務所、しかも同期に売り出したモデルである。
普段から何かと天国につっかかり、絡んでくる。
天国も最初彼とは喧嘩ばかりをしていたが、最近は以前程悪い感情は持っていないようだった。
そして、芭唐にとっては気にくわないとしか言いようのない存在だった。
「お、犬飼。」
天国は軽く返事を返す。
それは芭唐にとって腹のたつことでしかなかった、
「……またな。」
「おう、じゃあな!!」
どうやらそれだけを言いに来たらしい。
だが、今の間はなんだったのか。
敏感な芭唐は既に感じ取っていた。
犬飼は天国を想っているのだ。
自分と、同じように。
「……。」
「わわっ!!おい、ちょっと待てって…。
し、失礼しました〜〜〜っ!!」
芭唐は無言で天国の腕を引っぱり撮影所から連れ出した。
天国の車の傍に来ると、漸く芭唐は立ち止まった。
早速天国は芭唐に口を開く。
「ったく、何なんだよ。何かあったのか?」
保護者としては強引で身勝手な行動に注意の一言を投げかけたい所だったが、この被保護者が言って聞くような可愛い性格ではないことがよく分かっていた。
だから理由だけを聞くことにした。
「…何にもねーよ。
……会いたかっただけ。」
芭唐は天国の眼を見ずに答えた。
「あぁ?何言ってんだ。ウチ帰れば会えるだろが。」
天国は呆れたように車のキーを出すと鍵をあける。
(そういう事じゃねーけど…。)
芭唐は口をつぐみ、助手席に乗り込んだ。
「まあ、たまにゃお前と一緒に帰るのも悪くねーけどよ。
何か食っていくか?」
天国は既に芭唐の行動の理由から話題を逸らす。
「…何もいわねーんだ。」
「そりゃま、保護者としちゃ言っておくべきだろうけどな。
シンライしてますからv芭唐くんのこと。」
おかしげに笑いながら、天国は車を発進させた。
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御柳芭唐が猿野天国にあったのは芭唐が5歳の時。
親代わりだったたった一人の身内だった20歳年上の兄、懸(かける)が亡くなった時だった。
芭唐にとっては全く見も知らない整った顔立ちの男。
葬式の席に現れた天国は、芭唐を見て自分が引き取ると言い出した。
それは常識的に考えてもとんでもない話だった。
当時19歳だった天国は、大学生で、アルバイトでモデルをしており、当然のごとく未成年だった。
しかも、親戚にとっては身元も知らない少年で。
そんな子どもに芭唐を預ける事を了承するわけには行かなかった。
しかし、天国は芭唐を引き取ると強く言い張り、引く事はなかった。
すると天国は生前の兄からの手紙を見せた。
そこには弟である芭唐を天国に任せるよう頼む内容が認められていた。
最終的には御柳の親戚も未成年に預けるのは流石に気が引けたようだったが、子ども一人を預かる余裕はどの家もなく。
天国が数ヶ月して20歳になるのを待つと、芭唐は天国の元に行く事になったのだ。
芭唐は、天国の家に行く事にそれほどの抵抗は感じていなかった。
ただ、親戚の家にいるよりは面白そうだと
それだけ思った。
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「なー、芭唐。」
「ん?」
あれから10年。
芭唐の身長は決して低くはない天国の身長を既に追い越していた。
「来週の土曜ちょっと出かけるぞ?」
「どこに?」
「懸さんの墓参り。」
To be continued…
久しぶりのパラレル更新です。
一応ちょっとだけ設定出しましたけど…まあ法律的にどうかという意見は置いといてください。
所詮妄想劇場ですから。
さて、この連載でもしつこくオリキャラ登場しましたね。
芭唐の兄、懸(かける) 享年25歳。設定としては芭唐そっくりの顔です。
後は決めてません。(どきっぱり)
天国とどういう関係だったか…まあ一応今は内緒ってことで。
想像つくでしょうけど…。(汗)
これもいつか終わるといいなあ…。(死)
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