遥かなるあなたに
5
「ふあ…。」
兄の墓参りに行った翌日。
もやもやとした悩みによる睡眠不足、
それにともなう眠気のせいで、芭唐はぼんやりと通学路を歩いていた。
突然、肩に弱くない衝撃を感じた。
「ぶっ!」
「あれ、どうしたのミヤ。
いつもはよけるのに。」
「お前か…スミレ…。」
振り返ると芭唐の数少ない友人といえる同級生、墨蓮がいた。
それなりに整った顔で、芭唐のように目立つタイプではないが美形と称される男である。
それを利用することもなく、誰に対しても人当たりがいい。
そういうタイプは、天の邪鬼の傾向のある芭唐の性格にはあまりあわないものだが。
墨蓮の「人当たり」は芭唐の「悪さ」も物ともしなかった。
気にもしなければ、それなりの返しの技術も持っていたのである。
つまりは、墨蓮の根気勝ちというより芭唐の根気負けである。
入学して半年、現在ではまあ知り合いから友人に互いに昇格していると言えよう。
そういう相手だった。
「何、なんか怒られたの?あのひとに。」
「…なんであいつが出てくるんだよ。」
「それ以外ってあるの?」
「……ねえよ。」
墨蓮のいう「あのひと」とは例にもれず、天国のことであった。
芭唐の保護者がモデルの猿野天国であることは、周知の事実となっていた。
入学式のとき、芭唐の再三の拒否にも関わらず天国が出席をしたからだ。
特に墨蓮には(誘導尋問に近かったが)いくつか家庭の事情というものを話している。
そんな理由から、墨蓮は芭唐の落ち込み=保護者関連であることを熟知していた。
芭唐の感情を動かすのは彼だけであることも。
その感情に若干以上色香がまじっていることまで知っているのかは、芭唐からは分からなかったが。
「別にあいつは怒ってねえよ。
てめえで沈んでるだけだ。」
「へーーーーーーっそりゃすごいね。
そうかーミヤも反省とか自省とかを覚えたんだねー。」
大げさにびっくりしながら墨蓮は芭唐の頭をなでた。
「スミレ…お前オレを馬鹿だと思ってるだろ。」
「とんでもない。成長したなって思ったんだよ?」
大人ぶった答えに、芭唐は再び機嫌を降下させた。
「うるせえ…ガキ扱いすんなよ。」
「あれ、地雷踏んだみたいだね。」
墨蓮は少し笑って、手をひっこめた。
「ま、この話題はここまでにしとこっか。
それより数学の課題やってきたか?今日一限目屑桐先生だぞ?」
「あー…担任様か。
いい、見てから解く。」
「あはは、流石ミヤ。殴りたくなるなーその余裕。」
言いながら、墨蓮は芭唐の後頭部をやや力をこめてはたいた。
「でっ!実行すんじゃねえよ!」
「はいはいごめんね。お礼に問5を教えてもらおう。」
「それお前が得するだけだろーが。
機嫌損ねた。教えねえ。」
「じゃあ来週の土曜の掃除当番交替しないよー。」
「…悪かった。」
他愛のない会話のあと、芭唐は悪友と学校にたどり着いた。
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「では今日の授業はここまで。」
ホームルームから一限目を終え、芭唐は伸びを終えた。
その瞬間、堅苦しく厳しいと評判の担任から、重く低い声がかかった。
「それから御柳、あとで職員室へ来い。
逃亡は許さん。」
「げ。」
その二言に、芭唐は気を重くさせた。
担任である屑桐無涯のことは(芭唐にしては珍しく)嫌ってはいないが、
苦手意識は多大に持っていた。
そのせいで屑桐の授業のみ、芭唐の出席率は高かった。
また成績も悪くはない。
むしろ(熱心に勉強してる者からしたら後ろから刺したくなるほどには)好成績を常に収めていた。
尤も、学校という場所は学業成績だけで生徒を判断するようには、なっているようでなっていない。
そのために説教をいただくことも皆無ではなかった。
「がんばれよ。」
「……。」
まったく嬉しくない墨蓮からの激励を受けながら、芭唐は職員室へと足を運んだ。
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「なぜ呼び出されたのか、分かっているのか?」
「…さあ。知りませんけど。」
「全く、お前は…。」
内容は大方の予想通り、芭唐の素行不良に対する説教だった。
大体は右から左だが、この担任の声は聞いてる方の意思にかかわりなく耳に入ってくる類のもので。
また(芭唐にしてみれば)無駄に説得力もあり、ついつい聞いていた。
特に今日のように珍しい自己嫌悪にさいなまれている日には、多少以上に堪えていた。
そんな気分が表情に出ていたのか、屑桐は意外そうな顔をした。
「…ほう、今日はずいぶん殊勝な顔をしているな。」
「…別に、そんなつもりはないっすよ。」
「まあ、お前はそう言うだろうがな。」
ふっと、珍しい笑みを見せると、屑桐は整頓された自分の机から一枚の紙を出した。
「まあ説教はこのくらいにしてだな。
お前三者面談があるってのは耳に入れていたか?」
「三者…面談?」
「予想はしていたがな。今日の呼び出しのメインはこちらだ。
保護者にちゃんと伝えておけよ。」
そんなことは最初から頭の外だった。
芭唐は手元の紙を見る。
「お前の保護者は忙しいようだからな。
希望はできる限り聞くと言っておいてくれ。」
「…はあ。」
その紙はまた芭唐の気持ちに負荷を与えていた。
「猿野によろしくな。」
「はい…え?」
ふと担任がもらした言葉に、芭唐は目を見開く。
「…えっと、個人的に知ってるんすか?その言い方…。」
「ああ、知らなかったか?」
少し意外そうに、屑桐は言った。
「お前の兄貴つながりでな。
高校の時の知り合いだ。」
その答えに、芭唐は驚かずにいられなかった。
To be Continued…
はい、屑桐さんと墨蓮くん登場です。
ほぼ初期設定どおりいっているのですが、考えた当時の華武高校loveっぷりがよく見えますねえv
屑桐さんの設定はほんのすこし変えました。
この結果かなりストーリーへのかかわりが濃くなります。
ちゃんと書かないといけませんね;
読んでくださった方、ありがとうございました!!
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