遥かなるあなたに



7



「あんた、誰。」

質問じゃない言葉。それが初めて聞いた芭唐の言葉だった。

あの人によく似てる、と思った。
それからも10年になる。

10年。あの人を思い出さない日は…。


少しずつ増えていた。


でも、まだ思い出していた。



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「おーう、お待たへ。」
「早えよ。」


三者面談のために芭唐の通う高校に来た天国は、とりあえず目立たないスーツを身につけていた。
が、やはり目立っていた。

身長はやや低めだが、モデルなだけにその辺の大人には決してないオーラがにじみ出ている。
だからやはり、目立っていた。


「……。」
「なんだ、センセに何か言われるのが不安か?」
「それが嫌なら真面目にやってるよ。」
「だな。そーゆー奴だよ、お前は。」

不機嫌な顔を見せる芭唐に、天国は見当違いの事を言い出す。
というか別に答えを探すつもりもないのだろう。

分かってるのか分かってないのか、未だ芭唐にはわからなかった。


不機嫌なままでいると、よく見る美形が目に入った。
「よ、お前今日だったわけ?」


「ども、猿野さんお久しぶりです。」
「スミレちゃんか、久しぶりだな。」
「何でいるんだてめーは。」

そこにいたのはとっくに帰ってるはずの墨蓮だった。
今日は面談じゃないこの男が残っているということは。


「そりゃもう、猿野さんにごあいさつしたかったし。」
「だろうと思ったよ。」

「ははっ、スミレちゃんは礼儀正しいなー。
 芭唐も見習えよ。」
「やなこった!」

ゴッ

そう叫んだ瞬間、後頭部に重い衝撃が来た。


「でっ!」
「やかましいぞ御柳。
 とっとと入れ。順番だ。」

保護者の目の前で堂々と暴力をふるってくれたのは担任だった。
そして全く気にしない保護者は…。

「あ、ども屑桐さ…いや、屑桐先生。」
「…ああ。入れ。」


すこしぎこちなく、あいさつを交わした。



#######

「…というわけでな、学業は異常に優秀だが素行は立派に不良だ。
 他の担任からも苦情が時々来るな。」
「……。」

歯に衣着せることなど全く考えていない担任の言葉に、芭唐はとりあえず黙っていた。

天国は予想してたのだろう、特に驚いた顔も見せなかった。
だが保護者としては無視もできまい。

「迷惑かけてますね。すみません。」
「まあ頭だけはいいからなこいつは。
 お前には迷惑かけたくないだろうし、そう無茶はしないだろう。
 その辺は信用しているが。」

「〜〜〜〜。」
(どういう信用だそりゃ。)

というか、そんなこと天国の前ではっきり言ってくれるなと心で叫んだ。
照れくさくて仕方ない。

天国は気にしないだろうが…と思いながらふと天国の方を見ると。
珍しく天国は頬を染めて…照れていた。


「…そりゃ、どうも。」
(…え…。)


こんな顔、初めて見た。
芭唐は驚いて保護者の顔を凝視した。


「…フッ。」
おかしげにひとつ息をついた屑桐に、二人は姿勢をただす。


「とりあえずもうちょっと授業中起きるようにはしとけ。
 お前にはそれくらいしか言うことはない。言っても聞く気はないだろう?」
「…ごもっとも。」


それで、三者面談は終わった。
芭唐は先に教室から一歩外に出た。

「すみません屑桐先生、世話になります。」
「ああ。それから…。」



「何かあれば言えよ。牛尾も心配してるぞ?」

「…はい。」





######


「じゃあ芭唐、オレ仕事行くから。今日の飯先に食っといてくれよ。」
「…ん。」


車に乗った天国は、それだけ言うと車を走らせた。


その車を、芭唐はただ見送った。


さっきの言葉が、耳から離れなかった。




                              To be Conrinued…



久しぶりの年の差パラレルです。
少しずつ形ができてきました。まだまだ頑張るぞ。

一応帥仙さんとかも登場予定です。ホントに。(笑)

それにしても屑桐さんざっくばらんすぎますかね。
結構厳しくもいい先生になるような気がするんですが…。

では今日はこの辺で。
読んでくださる方、ほんとうにありがとうございます!



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