蝉の声




蝉の声が響いて

耳から離れない

 

まるで違う場所に

誘われるように

 

纏い付く空気は熱くて

ああ、 こんな音

 

大嫌いだ。

 

 

「耳障りだなぁ。」

「? どうしました?アルフレッドさん。」

「どうって、この虫の鳴く声だよ。

 菊はうるさいと思わないのかい?」

 

「虫?ああ、蝉ですね。

 いえ。特には。」

 

いつも通りの捕え所のない笑顔で菊は笑う。

よく冷えた麦茶は少し苦い。

 

「こちらでは夏の風物詩ですから。

 夕刻の声は風情がありますよ。」

 

「風情…ねえ。」

 

菊のいうことは

さっぱり分からない。

こんなのうるさいだけじゃないか。

駆除しちゃえばいいのに。

 

そう口にすると、

菊はとんでもないと

目をむいた。

珍しい顔だ。

 

「蝉は七年を地中で過ごし最後の七日のみを地上で過ごすのですよ。

 その七日を奪う権利など誰にもありません。」

 

菊は真面目に言ってる。

僕には冗談にも聞こえるのに。

耳障りな虫の生き様なんて考えたこともなかった。

 

「そうですか。

 では考えてみて下さい。」

 

菊はそれ以上言わずに

庭へ視線をやった。

 

相変わらず蝉はうるさい。

菊に気にされる命で、

こんなにやかましく鳴いている。

 

ジワジワジワジワ

ミーンミンミンミン

何かの叫びのようにも聞こえる。

 

力の限り命が叫んで、湿気の多い空気が身を包む。時々降る短い雨は慈悲のよう。

ああ、これが君の夏か。

 

 

蝉は夏に僕をほおりこむ。

 

 

ああくそ、こんなとこに連れて来て。

 

 

命を知れば僕は今まで通りすすめないじゃないか。

 

 

やっぱり蝉は嫌いだよ。

悪いね、菊。



「おや、蝉の声がやみましたね。」




End


初ヘタリア、米日です。

今真っ盛りの蝉の声をテーマに。
欧米の方は蝉の声が好きでない事が多いらしく
昔は日本映画を上映するのにわざわざ蝉の声をカットしたとか。

 

私はけっこ好きです。
蜩の声は特に。


戻る