もしも啓太が女の子だったら?!


七条臣編




「君が伊藤…啓太くん、ですね?はじめまして。」

いつものように笑顔の仮面をかぶって声をかけた。

だけど、振り向いた君を見て息を飲んだ。

 

 

「僕は七条臣といいます。」

 

 

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「まさか…そんなはずはないのに。」

伊藤啓太という転校生に謝罪のために会った七条は、少なからぬ衝撃を受けていた。

 

彼が似ていたからだ。

 

七条が西園寺に出会うよりも前。
閉ざされた心に触れた一瞬の光…。

 

祖父母の家から程近い公園で出会った少女。

「ケイト…。…啓太。」

西園寺にも話したことはない大切な思い出。

 

公園で潰れそうなほど淋しさを抱え込んでいた小さな彼に、物おじすることもなく近づいてきた姿。
よそ行きであろうベビーピンクのワンピースお着たかわいらしい女の子。

 

お互い言葉は分からなかったけれど。素直な好意はまっすぐに彼に伝わっていた。

 
「お兄ちゃんお名前は?」

満面の笑みで問われたのが名前であるとは、すぐにはわからずに少し戸惑った顔を見せると、
相手はああそうだ、と何かに気づいたようにまた口を開いた。

「ごめんなさい、先にぼくのお名前を言わなきゃいけなかったんだ。」
誰かに教わったのにと反省しながら、彼女は言った。


「ぼく、けいと。いとう、けいとっていいます。」

「…Keito…?」
聞き取れた言葉の、名前らしき部分を繰り返してみた。
すると相手はさらに嬉しげに笑った。

「うん、けいと!!ぼく、けいとです!」

どうやら相手の名前が「けいと」というらしいことは分かった。
それを分かってもらえたのが嬉しいらしく、本当に嬉しそうに彼女は笑った。


その顔を見ていると、こちらも嬉しくなってくるようで。
自分からも名前を伝えたいと思った。

「Keito。My name is….」

「あ!お兄ちゃんのお名前?」

相手は敏感にこちらの伝えたいことを分かってくれたようで、幼い七条の言葉にすぐに反応してくれた。
自分のことを知りたいと思ってくれる、その感情がよく伝わってくる。

それは七条の孤独な心に清水のように沁みてきた。


「Omi.」
「…おみ?」

Yes!
わかってくれた、と思った瞬間、七条は激しく首を縦に振った。

ぼくのなまえは、おみ。


「おみ、お兄ちゃんだね!じゃあおみ兄だ!おみ兄!」


「おみ兄、一緒に遊ぼ?」



それから、日が暮れるまで一緒にいてくれた。


彼女の母親が迎えに来るまで。



#######

「ほう…そんなことがあったとはな。初耳だ。」
「ええ、誰にも言ったことがありませんでしたから。」

その日、会計部で七条は今まで黙っていた秘密を親友にもらしていた。
西園寺は興味深げに聞いたあと、手にしていたティーカップをテーブルに下ろした。


「しかしその相手というのは少女だったのだろう?
 ではあの転校生ではありえないではないか。残念だがな。」

「ええ、そう思います。」

でも…似すぎているのだ。

七条は自分の記憶力にはある程度以上自信を持っていた。
その記憶がどこか否定を覆させる。


そして、名前も類似していた。

「だが、その転校生の姉や妹とも考えられるだろう。」
その意見は至極当然といえる。
だがそれも違う。

「ええ、確かに彼には妹がいます。ですが年の差を考えるとどうしても結びつかない。
 その妹さんの年なら、あの時まだ3歳くらいです。

 「彼女」は、どうみても6歳くらいでしたから。」


「もう調べたのか。流石に早いな。」
三分の二以上は呆れの気持ちをこめて西園寺は息をついた。


「まあ、大切な思い出にふけるのも悪くはあるまい。
 お前の殺伐とした性格にはいい薬だろう。」

「おやおや、ひどい言われようですね。」

親友の毒舌に少し苦笑しながら。
また七条は転校生のことを思い浮かべた。



(君が彼女であればいいのに。)


そう思って気づく。


どうやら自分は転校生の「彼」にも惹かれているようだ。


それならそれもいいかもしれない。
七条臣はこれからの日々にすくなからず期待を寄せてみた。



七条臣が伊藤啓太の秘密を知るのは、それから数日してからのことだった。





                                   end



なんとも久々に学園ヘヴン更新です。
だいぶ前に途中まで書いたものを発掘、完成させてみました。
まあこれを完成というのかどうかはちょっと自信ありませんが;;

七条君に関しては過去に実は会ってましたネタがかなりお気に入りです。(笑)
西園寺くんにばかり七条くんの思い出を取られるのはどーも癪なもんで。(七西ファンの方すみません;;)

そして学園ヘブンでは一番すきな七啓。
はまって数年後、ようやく初書きでした。


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