いくどめのはる

 

 

「じゃ、ちょっと待っててくださいね。」

「ああ、さっさと行って来い。」

「置いてっちゃうと明美のお・し・お・き・だぞv

「いーからはよ行け!」

「はーい。」


オフのある日、街をうろうろとしていると聞き覚えのある…
というより、忘れようと足掻いても無駄な声が聞こえてきた。

「…あれは…。」

無意識のまま視線を向けると、「そいつ」と覚えのない生真面目そうな眼鏡の男がいた。

どうやら同じ休日を二人で過ごしているらしい。

耳に入った会話の通り、「そいつ」は眼鏡男から離れて、私用に一度離れるらしい。
眼鏡男はそのままそこに留まり、タバコを取り出し慣れた仕草で火をつける。

…少なくとも見栄えのしない男ではないな、とひがみの若干絡まなくもない気分で観察する。

 

別に、そのまま去る事もできた。
だが何の気まぐれか、その覚えのない眼鏡男に近づいていた。


相手の視界に入ったかと思った時。その眼鏡男が思いもかけない事を言った。

「お前…帥仙…?」

「?!」

その言葉に帥仙刃六は目を見開いて驚いた。


####

「お前十二支だったのか。」

「ああ、まあ覚えられてるとも思えんがな。
 お前と同級で一応投手だった。」

「…知らんな。」

「だろうな。」

記憶にない事を言っても気にする様子はなかった。
今聞いた話によるとこの男は「あいつ」のいた十二支の投手だったらしい。
帥仙の記憶になかったのは公式戦に出るほどの実力がなかったからだと、笑った。


「今…あいつといただろう。まだ付き合いはあるのか。」
気になっていることを単刀直入に聞くと相手は納得した顔をした。

「ああ、だから寄って来たのか。付き合いはあるぜ。

 『付き合ってる』からな。」

「…へぇ。」

驚愕の事実、だが実際に聞いてそれほど驚いてはいなかった。

多分予想もしてたからだろう。
それに、相手が自慢するような口調ではなかった事も影響されているんだろう。

 

「驚かないな。」
「…驚いてはいるぜ。」

正直に答えた。

あの頃から男女問わず、学校問わずいろんな奴に思われていたあいつが、
(あの濃い面々と比較すれば)目立たない雰囲気のこの男と、とは。

そうは思った。

だが、なぜ。とか、どうして俺じゃない、とか。

そんな考えは不思議と出てこない。

長く思い続けていたからか。
どこか恋心は激しさを失っていたのか。
それでも、思う心が減っているわけじゃない。

自分の中にある心の形を、帥仙はどこか自覚していた。

「…お前も好きだったんだろ。」

「ああ、まあな。」

恋敵の質問にも、あっさりと答えていた。
すると相手は面白がるような顔をする。

「…ふーん…。」
「なんだ?」
「いや…お前も変わったんだな、帥仙。」

「…そうかもな。」

その時、「そいつ」が戻ってきた。

「一宮せんぱーいっ!おまたせしやしたーっ。
 猿野天国はばかりから帰還でーっす!」

「…トイレだったのか。」

「ああ。乙女のたしなみだそうだ。どこがか知らんが。」

「あいつは、変わらないな。」

「ああ。ずっとあのままだ。

 あのままでいてほしいと思ってる。」


「…同感だ。」

一宮はすっと足を運び、帥仙の隣りから天国の傍へ歩き出した。

帥仙はそれを横目に、
また散歩に戻ることにした。

 

 

 

#####



「あれ。誰としゃべってたんですか?一宮先輩。」
「ああ。俺のライバルだ。」
「へ?あ、同期デビューのとかですかっ?!」

「仕事じゃねえよ。」

何度も春をめぐり、君への思いは変わらないけれど。
俺たちは変わっていく。




これからもお前の傍で。

end


松井2号さまへ誕生日祝いにお送りしました。
久々のミスフル単品です。帥VS一猿…ですが思ったよりほのぼのしましたね;;

ちなみに設定としては、
一宮くんはそこそこ売れ始めた作家さんで。
帥仙くんは大学後プロ入りしたばかりという感じでお願いします。

天国は一宮の恋人です。ちゃんと大好きで付き合ってますよ!!

それから…この話、ポルノグラフィティの「ギフト」が元イメージです。
最初聞いた時から絶対一宮くんの曲だと思ってましたんで!!



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