感謝を。 親愛なる君へ。


「埼玉優勝おめでと〜〜〜!!」


「カンパ〜イ!!」

大阪での最後の夜、埼玉選抜チームは優勝祝いの大宴会となっていた。
にわかチームだった最初とは違い、一丸となっての勝利。
他校同校関係なく、チームの面々は肩をたたきあい勝利を喜び合っていた。


そんな中、十二支高校3年牛尾は、このチームの主砲となった後輩の姿がいないのに気付いた。


「…猿野くん?」



#######


「はー…。」
「こんなところにいたんだ。猿野くん。」
「え?!あ、牛尾主将…!見つかっちゃいましたか。」

彼がいたのは屋上だった。
賑やかな彼にはめずらしく、たった一人で。


「どうしたんだい?こんなところに…一人で。」
「ええ、まあ。」

天国は言葉を濁す。
そんな彼に、牛尾は違和感を感じずにいられなかった。


その空気に少し負担を感じた時。
天国が口を開いた。

「あ…主将。丁度良かった。話があったんです。」

「え?」
少し驚いて見た天国の眼は、とても真剣だった。


「お礼…言わせてください。
 初心者のオレがここにこれたの…マジ、主将のおかげでしたから…。」

天国は深々と頭を下ろした。

牛尾は面食らう。


礼が言いたいのは…むしろ…。


「猿野くん…顔、上げて…?」

「え?」

言われたまま天国は反応する。
その瞬間。

天国は牛尾の体温に包まれていた。


「主将…??!!」

驚いて離れようとする天国の身体を、牛尾は逃すまいと抱きしめる。
腕にさらに力を込めて。


「礼を言いたいのは僕のほうだよ…。
 野球に戻ってきてくれて…本当にありがとう…。」


後から、聞いた。
猿野天国の実の父親がプロ野球選手だったこと。
しかもメジャーリーグに挑戦するほどの。

そしてその父親に置いていかれたこと。
そのせいで…野球を憎んでいたことも…。


なのに。君は戻ってきてくれた。


「主将…。」

「僕は君に会えて…本当に、幸せだよ…?」


そう言って、少し身体を離す。


すると程なくまた近付いて。

星空の下、想いをこめて 天国の唇にキスした。


#######


「…なんつー…こと、してくれるんですか…;」

「はは…ごめん、つい…君が…ね。」

「オレがなんだっていうんです…か…。」

「君が好きだな…って改めて思ったから。」

にこり、と牛尾はさわやかに微笑んだ。


「改めて…て、え、ええ??!!」


牛尾のさらりとした告白に、天国は顔を瞬時に染めた。

そんな天国を見て、かわいい、と思いながら。


「好きだよ。ずっと前から…君の事が。
 僕とつきあってもらえるかな?」

「……順序、逆…じゃ…。」

「…そうだね、でも余裕なくて。」



「…そんならしくない…。」

「だって本気だから…そういうものじゃないかな?」


その言葉に、天国はさらに動揺する。
暗がりの中でも分かるほどに、真っ赤になって。


「返事…くれるかな?」



「…はい。」




例えばいくつもの偶然があってここにいるのだとしたら。

それを運命とか名前をつけられるのだとしたら。


それをくれたのがきっと 野球の神様 だったのかもしれないね。 



でも僕は 神様よりも 君に感謝したい。



この場所にたどり着く 運命を選んでくれた君を。



                                            end


わー久々に突発単発ミスフル牛猿です!
天国の生い立ちを知った当初から「よく野球をする気になったなあ」と思ってたので、
今回ココにその一端を出してみました。

こういうのやっぱり書き易いみたいです。

同時進行で似たような剣猿を考えてたので、近日中にそちらも(笑)

ではでは、読んでくださった方、本当にありがとうございました!


戻る