勝てない貴方
「待たんかこいつ!」
「怒ったらまた老けるよゲンイチローおじさん!」さてここは珍しく休日の真田弦一郎宅。
現在彼を知る者が見たら呆然とするような光景が広がっていた。皇帝の異名を持つテニス部副部長兼風紀委員長が
齢6歳の甥にからかわれているのだ。近しい者から見れば意外と納得できる…と言えなくもないのだが。
それでも珍景と言わざるを得ない光景であった。さて、その珍景をはたから楽しんでいた者がいた。
彼はそれをしばらく楽しんだ後。弦一郎と甥・左助が走り回る庭に面する壁から声をかけた。
「おーいっ真田ー。楽しそうだなー。」「なっ…。」
「あー!」
目いっぱい面白がっている声に、弦一郎は固まった。
見ずとも、その声を聞けばわかる。
そこにいたのは…。
「猿野のにーちゃん!久しぶり!」
弦一郎の先輩であり…片想いの相手でもある猿野天国その人だった。
#####「だっはっはっは!笑った笑った!
いーもん見れたよ。」「猿野さん…。」
むっつりとした表情で弦一郎は爆笑する相手に茶を差し出した。
自分に対してここまで遠慮なくものを云える数少ない人間の一人だが、
もっとも笑ってほしくない相手でもある。
その彼にここまで笑われては、弦一郎も恥を通り越して怒りが出てくる。「やー、左助ー、弦一郎オジサンこえーなあ。」
「だよねーにーちゃん。」ぽんぽんと横にぴったりとくっつく佐助の頭を撫でながら
気の合ったやり取りをする二人に、さらに怒りがこみ上げる。
「…………ところで、今日は何の御用なんですか?」
「あ、そうだそうだ。
左助、ちょっと悪いけどオジサンと二人にしてくれるか?」「?」
弦一郎の言葉に、天国は佐助に席をはずすように言った。
「えー?なんで。オレ大人しくしてるよ。」
佐助は不満そうに答える。
甥もライバルらしい、と弦一郎は心中でため息をつきながら、
天国の用件が何かが気になった。
「後でキャッチボールしてやるから、な?」
「うー…テニスしてくれるんなら許す。」
「……比べものにならんくらい下手だけどいいのか?」「いいよ!」
そこまで言うと納得したようで、あとでね、と機嫌良く佐助は部屋を後にした。
それを見送りながら手を振る天国の横顔を見て、弦一郎は一息つき、言った。
「で…本日のご用件は?」
「ほんっと固い奴…まあいいけど。」
天国は苦笑しながら、改まった態度になる。何を言うのかと思っていると、
「あけましておめでとーございます。」
「…は?」
ずる、と弦一郎の身体から力が抜ける。
何を言ってるんだこの人は。
「…もう2月も中旬なんですが?」
「あー、けどお互い忙しかったじゃん?
今年会うの初めてだろ?
お前からは来てくれないし…さ。」「…ええ、たしかに…。」
そう、天国が会いに来ない限り、会うことはなかった。
弦一郎から会いに行くことをしないからだ。
もちろん嫌いだから、ではない。
毎日楽しそうに野球をしている、この人に会いに行って迷惑になってはいけない…とそればかり考えてしまい、
弦一郎は自分から会いに行くことができないのだ。
それが臆病ともいえることだと、弦一郎自身気づいてはいるが…。天国相手だと、どうも調子が狂う。
嫌われたくない、そればかりを考えてしまうのだ。
かといって会いに来てくれるのを待ってばかりいると…こうやってほとんど会えなくなる。
会いに来てくれないと、その分不安になる。だから今日会えて、弦一郎は本当にうれしかった。
そのぶん恥ずかしいところを見られたのがショックであったりもしたのだが…。
そんなことをもやもや考えていると。
「で、な…その…これ…。」
「え?」
天国の手が差し出された。
その手には。チョコレート。
「あの…。これは…?」「これは…って、チョコレートだよ。
…まさかお前バレンタインデー知らないとか言わねえよな?」「い…いえ…それくらいは…って…。」
そうだ、今日は。2月14日。そう思いついた途端。
かああああああああああ
「…。」
「…っ…。」
弦一郎の顔は、見事に赤く染まった。
######
「…。」
「…。」
「…。」
「…。」
「…で、さあ。真田…。」
「…はい…?」
「返事、もらってもいいか?」
「…。」
「あ、すぐにってのは…やっぱ、無理だよな。」
「…この顔見て分からないんですか…。」
その後、佐助がしびれを切らして部屋に戻ると。
真っ赤な顔のまま無言の二人がにらみ合っていたと、父に語っていた。
end
考えてみれば初のジャンルミックスかも。テニプリ真田×猿です。
跡部&真田の別冊より。真田くんの甥っ子左助君も登場です。
椎名夏海さまに年賀祝いにと考えてましたがあまりにも遅くなり、
バレンタインネタになった代物です;
お受け取りありがとうございました!
戻る