この一歩が踏み出せない





もしも。もしもこの腕をつかめたなら。


「お世話になり申した。片倉殿。」
「真田…。」


秀吉が倒れ、豊臣が倒れようとする時。
目の前にいる男は、豊臣に殉ずる事を決めた。



自らの主君はすでに徳川の世になることを見定め、徳川につくことを決めていた。


それは二人の決定的な別離を意味していた。



それをこの男は…真田幸村は伝えに来たのだ。
自らの言葉で。この片倉小十郎に。



愛した恋人に。



「幸村。」

どこかすがるような声で、頭を下げる幸村の名を呼ぶ。


それを知ってか知らずか、幸村は顔をあげてただ笑みを見せた。
誰にも止められない決意がその笑みからみてとれる。



今行かせればもう会うことはできない。
愛してるのに。



「あなたにお会いできて幸せでありました。片倉殿。」



なんと残酷なことを言うのだろう。


今まで照れてばかりで睦言など口にしたこともなかったのに。




「俺もだ…。」
けれど自分の理性は、この場でさえ私人となりきれぬ部分はやさしい答えを返す。



言えるなら、口にできるなら行くなと言いたい。


この場であの頃のように、
愛していると離したくないと伝えたいのに。




すべてがそれを許さない。


自分すらも。




「お元気で。」




最後の言葉は、一人の未来を照らしていくのだろうか。



今は わからない。



end


決まってしまった悲劇に苦しむ小十郎。
悲恋は戦国の定番ですねvv


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