怖くて怖くてたまらない


「怖いことなんかないよね、きっと君には。」



特になんの考えもなしに言った言葉に。
彼は凍りついたように黙った。



「…猿野君?」
「…いえ、そうですね。」


「怖いものなんてなにもないですよ。」
彼は笑った。




その笑顔に、僕は恐怖を感じた。


「怖くないと思えば。」




########



この人は、何の考えもなしに言っただろう。
それとも自分を振り返ってそう思ったのか。


どちらにしろ。

その言葉は俺を否定するように思えた。


そんなつもりはないだろうけど。



怖いものがない?そんなことあるはずがない。

素人のくせにと蔑む部員や、入部試験に落ちたやつらの嫉みの言葉や視線。
うまく球を拾えない自分、自分のせいでピンチになる試合。



時折思い出すあの日の記憶。



全部気にしてないって思おうとして、
怖いんじゃない、と態度にだして。


この人にも幻滅されたくなくて。


嫌われたくなくて。




怖くてしかたなかったのに。





あ。

いま ひとつ




怖いものがなくなったような気がした。




end


牛猿。幻滅した天国…ですね。
牛尾君は地雷を踏んだようです…。


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