「雰囲気、変わったな。」
「あ?そうか?」
「ああ。」
久々にこうやって二人で会う親友は、だいぶ変わってた。
本人は気づいてるのか気づいてないのか。
いや、後者だろうなと思う。
居場所を見つけたことに気づいてから数か月。
今度は立ち位置を見出したのか。
今までは俺だけが知っていた事実。
本当なら、こいつは野球をやるために生まれてきたような家に生まれていた。
誰も知らなかったことだ。
こいつ本人だってずっと忘れようとしてきた。
だから、あの子を理由にしないと一時も野球に関わってはいられなかった。
あの子に「カレシ」がいると知ってすぐ退部届を出した本当のわけはそれだった。
単純で複雑な理由。
野球は本当ならこいつにとってトラウマでしかなかったのだ。
だから、退部の意志を覆したとき、本当に安心した。
こいつの複雑すぎるトラウマを払拭できた瞬間だったのだから。
オレは見ているだけしかしない。できない。
それ以上のことをこいつはオレには求めてくれない。
そして、今こいつはやっと5歳のあの頃の傷から歩きだしていた。
もうオレはいらないかもな。
オレも歩き出す時かもしれない。
泣き崩れたこいつを見た瞬間から抱き続けていた想いを、本当に動かす時。
少なからず臆病な気持ちになる。
まるでガキのようだ。
いや、ガキだな。
オレもお前も。
だから、今度こそ一緒に歩こうな。
天国。
end
シンプルに沢猿。
沢松は改めて切ないポジションだなあと思います;