それは心より生まれた



甲斐ので会った純情すぎるやつ。
真田幸村はそういう印象だった。



あんまり初心な反応ばっかりするのが面白くて、
なんとなく幸村の居城である上田に幾度となく足を運んでいた。



その質問が来たのは何回目の訪問の時かは、あまり覚えていない。



「慶次殿はいつも恋を語られるが…。」

「ん?何?」



幸村がこのテの話題を振ってくるなんて珍しいな。
そう思いながら話を促してみた。



「某にはよく分からぬ…。

 妻を娶ることとどう違うのでござろう。」



「えー…と。」



なんとも生真面目なおかつ無垢、そのうえ罪な質問だった。



幸村にとって結婚は恋ではない。

いや、武将には珍しくないことだろう。


自分の叔父夫婦のように心から恋し愛し合う夫婦のほうが少数派ともいえる。

けど。



「幸村は嫌いな女とでも結婚できるのか?」

少し硬くなった声を自覚して、質問を返した。




「…分からぬ。
 女子を好くことも、嫌うことも…。」




そうかもしれない。
まだ彼にとって女性は意識の外なのだ。

(17という年齢ではかなり問題かと思うが)



それでも幸村には嫌いな女と結婚してほしくない。
なぜか慶次の心にそんな気持ちがあった。



(…何でかわかんねえけど…。
 幸村が結婚するなら、せめて…。)



そこまで考えて、突然疑問符が現れた。



(せめて?…せめてって、なんだ?オレ。)



未知の答えがでてきそうになる。
慶次はこのとき、それを振り切ることを選択した。



「じゃあさ、オレは?」

「は?」



少し悪戯心を持って聞いてみた。
先ほどの気持ちを忘れるために。



すると幸村は戸惑いながらも答えた。



「慶次殿のことは、おそらく好きのほうでござるな。」


「…え。」




予想外な言葉。
それは先ほど振り切った未知なる感情を呼び起こす。



「…やばい…。」
「?」



がたり、と慶次は突然立ち上がった。




「慶次殿?どうなされた?」

「ご、ごめん、幸村!オレ急用思い出した!」




それだけ言うのが精いっぱいで。
慶次はその場を走り去った。



やばい。やばい。やばい。


どうやらこの感情、自分曰く「いいもの」であることは間違いないようだ。



が。


「いいけどよくないよ〜〜〜!!!」



慶次の悩みはこの日から始まるようだ。




end


幸村には自分とは結婚できないから、
せめていい女と結婚してほしいらしいです。
あーわかりにくい;


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