それは酷く怯(おび)えた遠吠えに似て







…また来た。


「殿、お時間でございます。」
「おお、そうか。すまないな趙雲。
 では凌統将軍、私はこれで失礼させていただこう。」



「ああ…。うん、また来なよ、劉備さん。」



「忝いな。」



人好きのする笑顔を見せる他国の君主に、軽い言葉をかける。

けしてやっていいことではないだろうが、
この人はいつも許してくれる。




けど、忘れてた。

それを許さない奴がここにいた。

趙子龍。この人の腹心中の腹心だ。
武に長け、忠深く義に厚い。
忠臣という言葉を体現したような奴。

そいつが凍りつくような眼差しを向けてくる。

その眼には主に対する無礼への怒りと、
もうひとつ。


(嫉妬かよ…。)


明らかな感情が含まれていた。

そうか、こいつもなんだよな、と改めて思う。

参った。



こんなに強くて頼りがいのある、しかもかなりの美丈夫。

戦いもせず白旗を上げる気はないが。
かなりの不利。


しかもこいつは、全身全霊でこの人を守ることが許されている。




嫉妬するのはこっちだ。




「あんた、ずるいよな。」



せめて小さく苦言をはいた。

すると、そいつは振り向いた。
劉備さんは気づいてない。
正直驚く。




そしてそいつは一言いった。




「どちらがだ。」



end



半端なオチですなー;
近すぎで踏み込めない趙雲と、最初から遠すぎる凌統。けど遠い分視界には入りやすいらしい。

この二人のVS、かなり楽しいです。



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