コドモな君とオトナな僕
昼下がり。
埼玉の自宅マンションでくつろぐ白雪の耳に快いインターホンの音が響く。
手にしていたグラスをテーブルに置くと、彼ははやる気持ちを抑えドアに向かった。
ドアを開けると、そこにいたのは。
「こんにちはーっ!白雪監督っおじゃまします!」
「やあ猿野くん。待ってたよ。」
####
「んが〜〜〜っ!!分っかんねええ〜〜〜!!」
「ほらほらまだ3枚目だよ?頑張ってね。」
ガリガリとそう安くないテーブルの表面を削る音を尻目に、
白雪は楽しげに新聞を開いていた。
本日、天国は学生の本分…つまり白雪に勉強を教わりに来たのだ。
ところが、白雪は先ほど天国に、練習問題のプリントを渡したままで背を向けて新聞を広げてしまったのだ。
先に問題を解いてそれから分からないところを…という方法をとったのだが。
どうも天国にはレベルの高すぎる問題のようだ。
とはいっても、天国にとって今やっている数学はそう不得手なものではない。
つまり、問題のレベルが高校1年生のレベルではないのだ。
それでも途中までは考えてもみはしたが…。
「難しすぎますってこれ!!」
「まあそうだね、それ国立大学の入試問題だし。」
「はあ?!」
自分の抗議に対して、のほほんと言われたその答えに、天国は唖然とした。
「そうだね、じゃないっすよ!オレはまだ1年で…!」
「そう?君数学は得意だって言ってたし、大丈夫かなと思ってたんだけど。」
「大丈夫なわけないでしょ!?」
選抜大会の時もむちゃくちゃな指導をした監督だったが、
まさか勉強までこうも非常識な教授をするとは。流石に天国も思わなかった。
ここにきて天国は人選を間違えたかな、と本気で思った。
#######
「……。」
「降参かな?」
一通り抗議してからさらに三十分。
まだ白雪は背を向けたままで楽しげに聞いた。
「う〜〜〜…。」
流石に弱音を吐いたままでは格好が付かないと、精一杯考えても見たのだが、結局徒労に終わっていた。
そしてもう意地も張ってられんとばかりに。
白雪の背に覆いかぶさった。
というか悪戯心もこめて、少し力を込めて。
ぐい、と 白雪の身体を軽く羽交い絞めした。
「降参っす!もう教えてください!ってか教えろ!」
「おやおや…。」
くす、と白雪は口の端を軽くあげて笑った。
「ひっかかった。」
「わ?!」
白雪は自分の身体に絡められた 天国の腕をとるとぐっと引き、
体制を変えた。
気づくと、天国は自分が白雪に押し倒された状態になっていることを知り。
あわてた。
「かっ、監督?!」
「油断大敵だよ、猿野くん?」
にっこり、と白雪は男性とは思えないほど綺麗な微笑を浮かべた。
「ちょ、監督…何のつもりっすか?!」
「なんのつもりって…君の考えてる通りかな?」
にこにこにこ。
その微笑みは、天国にこの上ない冷気を与えた。
「考えてる通りって、あ、あの、柔道ですか?!」
「今のは合気道だけど、これからやることはだいぶ違うなあ。」
「…やっぱ?」
「そ。」
にっこり笑って、白雪はゆっくりと。
天国の制服のボタンに手をかけた。
「カント…っ!!」
拒否の声を上げようとする唇を、手のひらでふさぎ。
授業は開始された。
…天国の大好きな保健体育の…。
#########
「君から僕に触らなかったら、何もしないつもりだったんだけどね。」
ぐったりと白雪のベッドに横たわり寝入る天国を見て、白雪は呟いた。
そして天国の髪に軽く触れる。
可愛い。
まだまぶしいほどに純粋なコドモ。
穢す自分は、悪いオトナ。
「今日は賭けに勝った僕の勝ち…かな。」
次は君が起きてから…どんな風に謝ろうかな。
これから起こる事を想像すると、不安と期待でいっぱいでそれもまた楽しみで。
白雪は笑みを深くした。
ふと、先ほど天国の解いていたプリントを見る。
すると、少し白雪は驚いた。
「へえ…もう少しで解けるところだったじゃないか…。
本当に得意なんだね…。」
(でも、もっと頑張ってもらわないと。)
「…今度からはちゃんと教えなきゃね。
2年半。」
白雪は、しばらくの間笑みをおさえることができなかった。
天国が白雪の勤務する国立大学に入学したのは これから2年半後の話…だったりする。
end
雪猿祭様にさっき投稿させていただきました(おい!)がこっちにもUPさせていただきます!
4月になったのに更新が滞りがちなのが変わらないんで…本当にすみません!!
このお話の元になったのは4月1日に途中まで参加させていただきました雪猿お絵茶会のログ。
あんまり萌えログばかりだったので、そのときの3等分のログを元に
3作書かせていただきたいといったところ皆様快諾してくださいましたので。
あと2作、頑張りますv
元になったログは雪猿祭様にて掲載されています。
1枚目のログの一番左の、泉様とちとせ様のイラストが今回の話の元です。
お二人とも、勝手なことして申し訳ありませんでした!
戻る