Notice
「あ。」
「ん…。」
いきなり、いきなりなところでいきなりな人に会った。
まず天国はそう思った。
しかも二人きり。
ちなみにここはちょっとしたショッピングモールのエレベーター。
目当ては4階の大手のスポーツショップだった。
それを考えれば、行き先は同じ。
となると。
あんまり無言も気まずい。
何せ相手は。
「お久しぶりっすね。屑桐さん。」
「…ああ。」
生真面目で野球一筋の華武高校、元主将 屑桐無涯だった。
ウィーン…
小さい機械音が響く中、元来沈黙が耐えられない天国は
会話のとっかかりを探していた。
「あ、屑桐さん、入団決まったんでしたよね!おめでとうございます!」
「…ああ。」
「お祝いとかしてなくてすんませんけど…。」
「必要ない。」
…………。
「あの、華武の新しいキャプテンて決まったんですよね!」
「ああ。録になった。」
「へ〜モバイル先輩っすか。ちょっと意外かも。」
「お前がどう思おうと最上の人選だ。」
「へ、へえ…。」
………。
「そういえば御柳の奴とこの間会いましたよ。
屑桐さんたちが引退してせーせーしたって言ってたけど、ありゃ内心寂しがってますよ。」
「気のせいだ。」
……。
「あの…牛尾キャプテンと仲直りできたって…。」
「お前には関係のないことだ。」
…。
(とりつくしま皆無かよ!!!
犬飼なんか比べ物になんねーくらいノリ悪いじゃねえか;!!)
手強すぎる。
さすがというかなんと言うか、想像以上の代物だと、天国は実感する。
こんな状態では明美になることもできない。
ツッコミは絶対期待できないし、
何よりスベり確実のギャグをするには芸人根性がまだ少なかった。
(く、オレはト○ー○●にはなれねえな…。)←分かる人だけ分かってください;
はー…。
天国が大きなため息をついた瞬間。
チン♪と音がなり、目的の階に到着した。
(あー助かった;)
「あ、じゃあ屑桐さん、また!」
本音のままにほっとした顔で屑桐に挨拶して、天国はエレベーターから出ようとした。
が。
「え!!」
次の瞬間、天国は再度エレベーターの中に引きずり込まれた。
「く、屑桐さん?」
振り向くと目の前には明らかに怒った表情の屑桐がいた。
(こ、怖えぇえええ!!何、オレなんか悪いことしたっけ!!?)
いや、確かにさっきほっとしたのは、失礼に値するだろう。
だが原因は屑桐にあるといってもいいし、何よりそんな事を気にする人だとも思えない。
じゃあ何で。
口にしようとするまえに屑桐は口を開いた。
「そんなにオレと居るのが嫌か?猿野。」
(嫌っつーか辛い・・・って、え?!)
天国は心底驚いた。
屑桐が人にどう思われているかいちいち気にするタイプだとは思ってもみなかったからだ。
目を白黒させていると、屑桐はまた言った。
「…牛尾と居る時はそんな顔をしたことはないだろう。」
「へ?何で牛尾キャプテン…?」
「…っ…!」
「え?!」
牛尾の名が出たことの疑問を返すと。
屑桐はとたんに何かに驚いたような顔をする。
そして次の瞬間、顔を真っ赤に染めた。
「く、屑桐さ…。」
「…っ…行け!」
「え?!」
どん、と肩を押され今度は外に押し出される。
「ちょっと屑桐さん?!」
天国が顔を上げると、もうエレベーターはしまっていた。
(何なんだ?ってかどこ行く気だよあの人。)
屑桐が乗ったエレベーターの行く先には、診療所(しかも小児科)と図書館だけだった。
#######
さて、エレベーターに一人残った屑桐は、と言うと。
真っ赤にした顔面を片手で隠し。
今。
そう、たった今気付いた自分の気持ちに戸惑っていた。
(馬鹿な…オレが、猿ガキの事を…。)
否定しようとした、でもできなかった。
さっきの驚いた顔を思い出せば、感じたことのない甘い感情が心を占める。
屑桐にとってはまぎれもなく初めての感情だったが。
自覚には十分だった。
(気付かれたかも…しれん…;)
しかも先程本人に取った行動、あれは嫉妬以外のなにものでもなかった。
あまりに分かりやすい、だからもうバレているかもしれない。
そう思うと、恥ずかしくも不安な気持ちでいっぱいになる。
嫌われたり、気持ち悪いとか思われていないか、とか。
最初に会った時に最悪の印象しか残していないとか、そんな過去の事にも不安を隠せなくなるほどに。
好きで仕方ないのだと、気付いてしまった。
それが。
二人、の始まりとなる。
end
少女漫画風の話になってしまいました。
何か乙女な屑桐さん…ここは内弁慶と言った方がいいでしょうか;
webオンリーイベント「大輪一輪咲」に上の牛猿と同じく投稿させていただきました。
終了とともにで申し訳ないですが;こちらに展示させていただきます。
素敵イベント本当にありがとうございました!
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