成人の儀




きゅ。

 

「はい、これでできあがり。」
とん、と真新しいスーツを着た胸を母に押された。

 

 

「行ってらっしゃい。」

 

今日は成人の日。
母は感慨深げな顔で息子を送り出した。

 

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「あ、猿野くん!久しぶりっすね!」
「よ!子津ー!お前もあんまり変わんねえな!」

 

会場に行くと、懐かしい顔ぶれが見えた。
成人式とは言っても、どちらかというと大がかりな同窓会に近い。
式自体はどこへ行っても退屈なものが大半なのでそれを理由に騒ぐ輩も多いものだ。

 

むしろこの猿野天国、それこそどこでも騒ぐ男なので。
正直なところ高校時代からの部活の相棒である子津は心配だった。

 

「あれ、そういえば沢松くんは?」
天国のブレーキでありアクセルでもある男は姿を見せていない。

 

「ああ、あいつなら今日は何か用済ませて来るから遅れるってさ。」
「そっか。来るんすね。」
「ん。」

 

ややそっけない返答ではあるが、照れ隠しであることは長い付き合いで分かっていた。
だから子津はそれ以上言及することはなかった。

 

だがそれ以前に、天国が淋しげなのが見て取れる。
それが天国にどことなく艶気を纏わせていた。

 

 

そんな様子に、引き寄せられるように子津は手を伸ばした。

 

「あの、猿野く…。」

 

「猿野。」

 

 

その後ろから、突然聞き覚えのある声が響いた。
天国ははじかれるように声の主に視線を向けた。
 
 
「…猪里せんぱ…。」
「久しぶりっちゃね、猿野。…子津も。」
 
「は、はい。お久しぶりです。」
 
子津は伸ばそうとした手を戻した。
 
 
彼が来たのなら、出る幕はない、と。
それはわかっていたから。
 
 
「さ、行こか。」
猪里は子津の傍を通りすぎ、天国の肩に手を置いた。
彼は高校時代より少し伸びて、さらに幾分かがっしりとした体つきになっている。
 
卒業と同時に田舎へ戻り実家を継いだと、子津も聞いていたが。
 
 
 
この人はもう大人なのだ、と。
思い知らされるような存在感があった。
 
それは天国も感じ取っていただろう。
 
「行こうって…どこに…。オレ、これから成人式…。」
「んな退屈な式お前には合わんっちゃ。オレと二人で成人式。
 行くやろ。」
有無を言わせない笑顔でにこり、と笑う。
 
「…はい。」
 
 
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「…やっぱり沢松くんだったんすね。猪里先輩呼んだの。」
「っていうか来たんだよ、あの人が。
オレはただのアッシーにされたってわけ。」
「…お疲れ様っす。」
「全くだ。まああいつにゃいいだろ。
 成人式さわぎまくってテレビに映るよりはなー。」
 
「…。」
 
「まあ、それは冗談だけどな、今は。」
 
あの頃と違って。
 
 
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「どこ、行くんすか?」

 

成人式をのがれて、天国の車(猿野酒店所有)に乗ると、猪里の運転のもと移動した。
 
 
「ええとこ、高校ん時に見つけたっちゃ。」
 
 
にまりと笑って、そのまま猪里は黙った。
 
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それから数十分もしてから、たどりついた。
 
「わ…。」
 
そこは十二支市が一望できる丘。
街があり、気付かなかった緑があり。
 
十二支高校が、あった。
 
「この街でお前に会えたからな。
 ここで祝いたかったんや。」
 
「…猪里先輩…。」
 
 
「おめでとう、猿野。」
 
「はい…!」
 
二人の影が丘の上で重なった。
 
思い出の場所に見守られて、二人は大人になる。
 
 
 

                                                 End



石黒あかね様にお渡ししました、寒中見舞いがわりの成人式ものです。
大人な二人vを目指してはみましたが、目指しただけでやっぱ終わりました;;

個人的に猪里ソングなGOING UNDER GROUNDの「トワイライト」がちょっと入ってます。
「きらり」もいい曲ですよvv

とにもかくにもあかねさん、お受け取りありがとうございました!!


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