獲り還し
静かな、静かすぎる病室にその人は訪れた。
「新川さん…。」
「こんにちは。」
現れたのは…新川さんだった。
彼の視線の先にはベッドに眠るハルヒがいた。
ハルヒが眠ったままになって1週間。
世界は変わらず、だがハルヒは目を醒まさなかった。
何がきっかけかは分からない。
だが気付いたのかもしれない、と思っていた。
俺が今見舞いに来たこの人と特殊な関係を築いていた事を。
「まだ涼宮さんは目を醒まされないご様子ですね。」
「はい。」
「こうやって拝見するとただ眠っているだけにも見えますね。」
「…そうですね。」
「こちらの観測によりますと現在は目立った異常はないようです。」
「…そうですか。」
新川さんは淡々と話した。
俺も相手の顔も見ずに淡々と返した。
ただハルヒの顔を見て。
…俺が冬に別の世界に飛ばされた時も、
ハルヒや皆はこんな気持ちだったのかな。
何だか改めて申し訳ない気がする。
無意識のうちにハルヒの手に触れようと手を伸ばしていた。
パシ
その時、少なからず勢いのいい音とともに、
ハルヒに伸ばしていた手を取られた。
俺の手を取った腕の先には当然のごとく新川さんがいた。
「…新川、さん。」
「……あなたは先程から私をご覧になりませんね。
その上私の目の前で涼宮さんの手を取られる…。
私にとってあまり愉快なことではありませんが。」
いつもどおりの声音。
いつもどおりの表情…だが、俺は悟ることができた。
新川さんは怒ってる。
…だけど、それは俺にとっても心外だ。
ハルヒを心配してる…こんな時に、そんな。
「……今、それどころじゃ…ないでしょ。」
「今だからこそ言えるのではありませんか。
彼女は意識を失っている。
私には涼宮さんの隙をついてあなたと会うことしかできない…。
いえ、できなかった。
だけど、今は。」
何を言ってるんだ、こんなときに。
ハルヒが目を覚まさないんだ。なのに、こんなときに。
ああ、苛々する。
「……もうやめてください。新川さん。」
もう聞きたくない。
ハルヒの状態を喜んでいるあなたの声はもう…。
「……終わりに、しましょう。」
そう口にしていた。
新川さんは、その瞬間体を震わせたように思う。
傷つけただろうか。
でももう、そんなこと気にならない。
ハルヒしか目に入らない。
「……私と別れる、とそういった意味での言葉ととるべきでしょうか?」
「ええ。違いはありません。」
声が堅かった。俺も、新川さんも。
でも新川さんの顔を見るつもりも、俺にはなかった。
「……嫌だ、と言ったら。」
「俺にはもう関係ないことです。」
不思議だ、あんなに好きだったこの人が。
もう今は煩わしいとすら思える。
「……キョン君…。」
「さようならです。新川さん。
今までありがとうございました。」
俺の声は自分でも驚くほど冷たかった。
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神は取り返したのだ。自分だけの鍵を。
奪い返したのだ、私の腕から。
甘く見ていた。神の能力を。
いや、安心したかったのだ。
大丈夫だと思い込んで、油断したかったのだ。
年甲斐もないことかもしれないが、私は本気だった。
彼もきっと本気で愛していてくれただろう。
せめてそう信じていたい。
だが神は自らの存在をかけて彼を取り返した。
その証拠に。
彼に別れを告げられた夜。
神は眼を醒ました。
end
若干加筆しました再録新キョンです。振られてますが。
うーん、古泉くんでも良かったような気がします;
でも好きなんですよね新川さん。
ひどいキョン君とハルヒですみません…;;
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