強く儚い者たち


13



「明美…。」



屑桐が衝動に駆られ天国に口付けたあと。
そこに一人の少女がいた。

その姿を確認した一瞬、天国の肩を掴む屑桐の手から力が抜けた。


「…………!」
「!…天国…っ」
天国はたまらない思いで屑桐の手から無言で走り去っていった。



そこに残ったのは屑桐と・・・明美だけになった。
屑桐は流石にいたたまれない気持ちで、明美に声をかけた。

「明美…。」

「謝んないでよね。」

明美は意外にも落ち着いた、いつものような声で答える。



「分かってた、から。」


明美はそう言って微笑んだ。



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走り去った天国はそのまま自分の部屋に駆け込んだ。


「天国?どうかしたの?」
息子の取り乱したような行動に、母は流石に怪訝に思った。

「なんでもない…っ。」

「無涯君とケンカでもしたの?」

「…ん、ごめん…母さん。しばらく一人にして?」

「分かったわ。落ち着いたら降りてらっしゃい。
 夕食まだでしょ?」

「うん。…ありがと。」


天国は、母の心遣いを嬉しく思いながらも、先ほどの光景を思い浮かべ大きな罪悪感に捕らわれた。



「なん…で…あんな…無涯…っ。」
突然の、キス。

近しい幼馴染からされたことも。
男からキスされたことも。
天国の混乱と罪悪感の原因になっていたが。

何よりも天国に衝撃を与えたのは。


嫌だと


思わなかったこと。


「違う…違う!!
 無涯は、明美が好きだから!!
 明美だって…!」


ただ苦しかった。

大好きな姉を裏切ったことが。


「明美は…僕を許さないかな…。」


その時、一本の電話がかかる。


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「ただいま…。」
「おかえりっ無涯にーちゃん!!」

少し疲れた表情で帰宅した屑桐に、兄弟たちがむらがった。
屑桐はいつものように元気な弟たちの姿にほっと心をなごませる。


そしていつものように、何か折ってやろうと腰を上げたその時。
一本の電話がかかった。

今はもう夜の10時に近い。
となると、何か急用かもしれない。

そう思い、受話器をとった。

『猿野ですが・・・無涯君?』
屑桐の耳に入ってきたのは、天国と明美の父の声。
「はい。どうしたんですか?おじさん。」


『…今日明美…事故にあってね。
 たった今、亡くなったんだ…。』



「……え…。」


『遅くに悪いけど…近くの市民病院に来てくれるかい?』




もしこれがオレへの戒めなのだとしたら


お前はオレを許しはしないだろう




                                    To be Continued…

はい、思ったより早めにあがりました、13話目です。
次で過去編終わりです。
ちょっとっつーかだいぶ痛いかも…。
お嫌いな方は注意してくださいね。

では、ここまで読んでくださっていつもありがとうございます!


  


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