強く儚い者たち

21 (後編)


「明美が好きだったのはオレじゃない!お前だけだ!!」


屑桐の言葉に、今度は天国が驚愕する番であった。


「そんな…そんなわけない!
 明美とオレは…!」


「ううん、本当よ。天国君。」


突然放たれた声。
その声の主は。


「豊川先輩…?!」

「豊川?!」


天国のかつての恋人、豊川美亜だった。


「先輩…何でここに…。」
「屑桐先輩のところの1年生だった?あのアイラインの入った男の子が教えてくれたの。
 …だから多分、ここかなって思って。」

「今は邪魔だ。豊川。
 後にしておいてくれ。」
屑桐は突然の来訪者の出現に苦虫を咬む。

「そうは行きませんよ。
 天国君に…言わなきゃいけないことがあって。」

「え?」


豊川は天国の前に来た。
そして、静かに話し始めた。

「天国君、聞いて。
 明美ちゃんが死んだあの日…。明美ちゃん、私のところに来たの。」


そして、こう言ったのだ。

##############

『豊川先輩。…天国とお付き合いしてくれてるんですね。』
『う、うん…。告白したら、OKしてくれて…。1週間前から。』
『豊川先輩。いきなりですみません。
 私、天国のことが好きです。男として。』
『え?!』
豊川は当然驚いた。
天国と明美は、確かに…。
『私と天国は双子の姉弟なのにって、言いたいと思います。
 でも事実…なんです。
 あ、でもだからと言って、豊川先輩に別れてくれとか、そういう事言いにきたんじゃないんです。
 ただ、その、なんていうかな。
 豊川先輩が天国のこと好きだから。
 知ってて欲しいなって思ったんです。

 同じ男が好きな同士として…っていうか。』
『明美ちゃん…。』
『私と天国って、それでもやっぱり姉弟だから。
 付き合うとか、結婚するとか、そんなことは出来るわけないですから。
 天国をどうこうしたいって…思わないって言えばうそになるんですけど、でもまあするつもりはないんです。
 そんなことしたら天国が辛いし…。
 天国にはずっと、笑ってて欲しいから。
 私は天国の傍で好きでいることを大事にしたいなって、それだけなんです。』
明美は少し儚く笑って、言葉を続けた。

『あ、それと豊川先輩、もう一人ライバル居ますからね。
 こっちは男なんですけど。
 男なんかに負けないように、お互い頑張りましょうね!』

明美はそう言うと、身を翻した。

『あ、明美ちゃん!』

『はい?』

『ありがと、言ってくれて。
 私も天国君を好きな気持ち、負けないから!』
『はい!』


それが明美を見た最後の姿になったのだ。


#############


「明美…。」


豊川の話は、屑桐も知らないことだった。
明美は何もかも受け入れていたのだ。
その上で天国を愛していこうと。

強く、そしてあまりにも辛い決意をしていたのだ。


天国は、豊川の話を聞きただ静かに涙をこぼした。

そして。


「じゃあ…オレは…オレは何にも気づかないで…。
 明美ばっかり全部背負わせて…。
 結局…明美に何も…っ!!」

嗚咽をこらえながら、天国は搾り出すように言った。
明美はずっとずっと自分を思っていてくれたのに。
自分は屑桐を、自分を責めて自分を消して明美になることでしか想えなかった。
自分の卑小さに天国は悲しさをほとばしらせる。

「それは違うわ。」

豊川は天国に言った。

「明美ちゃんは自分の意思で全てを受け入れたのよ。
 天国君、あなたに辛い思いをさせないために。
 それに、あなたに笑って欲しかったから。」


「そんな明美ちゃんの思いを否定するのは…ダメだと思うわ。」

豊川は天国の肩を持って言った。


すると。


「屑桐先輩?!」

突然、屑桐が豊川を天国から引き離し、天国の前に立った。

「天国。
 明美はお前だけを見ていた。
 オレはそんな明美を友人として、幼馴染として大切だと思っていた。
 だが。」 

「無涯…?」

「明美のためにお前が自分を消して明美になるというのなら、
 お前を失うと言うのなら
 オレは明美を許せない。」

「…無涯…!」

「勝手に死んで…。
 お前の心も死なせてしまうのなら、オレは明美を許すわけにはいかない。」

天国は屑桐の言葉に涙もそのままに怒りを露にする。

「無涯…!明美を侮辱するのか?!」

「ならお前のしている事はなんだ?!
 自分ばかり責めて、自分を消して!
 明美はお前に幸せになって欲しかったのではないのか?!」

「!!」
天国は眼を見開く。

「明美はお前にお前を殺してまで自分を残して欲しいと望んでいると思うのか?!
 お前こそ明美の思いを無駄にするつもりなのか?!」



「…む…がい…。」


天国はふっと力が抜けたように

ひざ立ちになった。



屑桐は天国のまえにしゃがみ。


「もう…戻って来い。

 明美の所から…。」



そしてゆっくりと、力強く天国の身体を抱きしめた。



「うッ…うっ…うわぁああ…。」




天国は屑桐の腕で泣き出した。

そして3年間の痛みを、重みを、全て流して。



「ごめん…ごめん、無涯…明美…。」


「天国…もういい、もういいんだ…。」


屑桐はただ天国を抱きしめていた。



豊川は、その姿を見ると安心したように微笑み、その場を去っていった。



後に残された二人は、時間を忘れるほどに抱きしめあっていた。






明美 やっと捕まえたぜ?   



遅いわよ。バカ。
もう…離すんじゃないわよ。

                                To be Continued…



はい、本編終了です!!
あとはエピローグのみ。

最後のコメントはエピローグにて!!

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