強く儚い者たち  





「天国と付き合ってる子…ですか?居ません…けど。」
「ほんと!?」
美亜は明美の答えに安堵と、期待を込めた声を漏らした。

そして、明美は冷静を装いながら動揺していた。
目の前の先輩が、何のために自分を呼び出したのか明白になったからだ。
彼女は、天国に女として想いを寄せているのだ…。

「あの…それでね、猿野さん。」
「天国に、個人的にお話がしたいんですね?」
心の動揺とは裏腹に、明美はいつものしっかり者のの少女の顔を保っていた。


「そ…そうなの。前から、天国君の事気になってて…、できたら、お付き合いして欲しいな…って。」
明美の予想してた通りの答えだった。
明美は、その声が遠くなっていくのを自覚していた。

「そっかー。先輩ってば、天国が好きなんですね。」
「う…うん。」
「でも、そういうのって自分で言いに行ったほうがいいですよ?」
「え…でも…。」
「天国って、はっきりした女の子が好きみたいですから。」
「そ、そうなの?」
「はいvだから私を間にするより自分で言いに行ったら好印象ですよー?」




(何…喋ってるんだろ…私…。)
明美の心と裏腹に、口はいつも通り動いていた。
目の前の美亜には全く気づかれないだろう。

今の明美が動揺している事に気づけるのは、天国だけだっただろう。




「分かったわ。ありがとう、猿野さん。」
ふと気づくと、美亜が心を決めた、という表情で明美に礼を言っていた。
どうやら、天国に告白する事を決めたらしい。
明美の仮面はにっこり笑って、心にもない事を言った。

「頑張ってくださいね。応援してます。」



(嘘つき…。)



そして、美亜が去った後明美は一人で帰途に着いた。



(嫌…天国は…渡さない…。)


思い浮かぶのは、弟の優しい清らかな安心した笑顔。
その笑顔が向けられるのは、自分と…もう一人だけだった。




今はそれも嫌だ…。


(嫌…天国は…無涯にも取られたくない!!
 私だけの…私…だけの…!)


そして、明美は自覚した。
実の弟に対する強すぎるほどの想いを。


(天国…好き…。)


明美は、人知れず薄暗くなった路上で涙をこぼした。




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天国は、電車のアナウンスを聞いて目を覚ました。
アナウンスは自宅の最寄り駅にもうすぐつく事を伝えている。
「あ…、着いたんだ。」
ぼんやりしながら、天国は眼を開けた。
そして、隣に居る良く知った男に声をかけた。

「あ、無涯。ごめん。僕寝てたね。」

「いや…気にするな。」
天国は、まだ眠気と戦い目を擦りながら屑桐の声を聞いた。


だから、気づかなかった。


屑桐が顔を背けていたことを。
天国の顔を見れなかった事を。



駅から二人の家までは、10分少々。
二人の間には余り会話がなかった。
いつもは天国が話し、屑桐が相槌を打って、それなりに会話がある。
なのに、今日はいつもより極端に会話が少なかった。 
天国が少しぼんやりしていたのと、屑桐が話をできるような状態ではなかった事が原因だった。

天国は、屑桐がもとから口数が多い方ではないことを熟知していたので、そう不審に思う事はなかったけれど。


そして、互いの自宅に着いた。
「あ、無涯。今日は泊まっていくの?」
天国はいつも通り、無邪気に聞いた。
無涯はその言葉に更に動揺した。

「い…っ、いや、いい!」
珍しく、口調がどもっていた。
「…そう?なら良いけど。んじゃ、またねー。」


天国はなんら疑問を感じることなく、家に入っていった。

屑桐はその後姿を見送ると、ため息を一つつき、自宅に入った。




その1時間後、明美は帰宅した。

「明美、お帰りーっ。」
「ただいまっ天国。」

明美は弟の姿を泣きそうなくらいに愛しいと思った。
そして、この感情を自分は押し込めなければいけないと強く思った。



そう考えていると。

「明美。無涯君から電話よ。」
「あ、うん。」


幼馴染からの電話。
彼が電話してくるのは珍しい。
用があれば直接来るのに。


「はい、どしたの?無涯。」
『明美?…話があるんだ。ちょっと出てきてくれないか?』


「?うん。すぐ行くよ。」


明美は受話器を置くと玄関の外に出た。



「明美。」
「無涯、あ、今日はありがとね。で、何の用?」


屑桐は思いつめた顔で、一言言った。






 「好きだ。付き合ってほしい。」




                                       To be Continued…

 さてさて、動きが出てきましたね。
ここからもう少しシリアスになっていくと思います。
あー。できたら引かないでくださいね!!
あくまでこの話は屑猿であって屑明ではないですから!!
…って、完璧ネタバレっすね。
そろそろ予想つくかと思いますが、お付き合いくださいませんでしょうか。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!!
まだ続きそうですみません。
これからもこの行き当たりばったり連載をよろしく〜・・・・。(力無い声)