強く儚い者たち
6
「天国と付き合ってる子…ですか?居ません…けど。」
「ほんと!?」
美亜は明美の答えに安堵と、期待を込めた声を漏らした。
そして、明美は冷静を装いながら動揺していた。
目の前の先輩が、何のために自分を呼び出したのか明白になったからだ。
彼女は、天国に女として想いを寄せているのだ…。
「あの…それでね、猿野さん。」
「天国に、個人的にお話がしたいんですね?」
心の動揺とは裏腹に、明美はいつものしっかり者のの少女の顔を保っていた。
「そ…そうなの。前から、天国君の事気になってて…、できたら、お付き合いして欲しいな…って。」
明美の予想してた通りの答えだった。
明美は、その声が遠くなっていくのを自覚していた。
「そっかー。先輩ってば、天国が好きなんですね。」
「う…うん。」
「でも、そういうのって自分で言いに行ったほうがいいですよ?」
「え…でも…。」
「天国って、はっきりした女の子が好きみたいですから。」
「そ、そうなの?」
「はいvだから私を間にするより自分で言いに行ったら好印象ですよー?」
(何…喋ってるんだろ…私…。)
明美の心と裏腹に、口はいつも通り動いていた。
目の前の美亜には全く気づかれないだろう。
今の明美が動揺している事に気づけるのは、天国だけだっただろう。
「分かったわ。ありがとう、猿野さん。」
ふと気づくと、美亜が心を決めた、という表情で明美に礼を言っていた。
どうやら、天国に告白する事を決めたらしい。
明美の仮面はにっこり笑って、心にもない事を言った。
「頑張ってくださいね。応援してます。」
(嘘つき…。)
そして、美亜が去った後明美は一人で帰途に着いた。
(嫌…天国は…渡さない…。)
思い浮かぶのは、弟の優しい清らかな安心した笑顔。
その笑顔が向けられるのは、自分と…もう一人だけだった。
今はそれも嫌だ…。
(嫌…天国は…無涯にも取られたくない!!
私だけの…私…だけの…!)
そして、明美は自覚した。
実の弟に対する強すぎるほどの想いを。
(天国…好き…。)
明美は、人知れず薄暗くなった路上で涙をこぼした。
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天国は、電車のアナウンスを聞いて目を覚ました。
アナウンスは自宅の最寄り駅にもうすぐつく事を伝えている。
「あ…、着いたんだ。」
ぼんやりしながら、天国は眼を開けた。
そして、隣に居る良く知った男に声をかけた。
「あ、無涯。ごめん。僕寝てたね。」
「いや…気にするな。」
天国は、まだ眠気と戦い目を擦りながら屑桐の声を聞いた。
だから、気づかなかった。
屑桐が顔を背けていたことを。
天国の顔を見れなかった事を。
駅から二人の家までは、10分少々。
二人の間には余り会話がなかった。
いつもは天国が話し、屑桐が相槌を打って、それなりに会話がある。
なのに、今日はいつもより極端に会話が少なかった。
天国が少しぼんやりしていたのと、屑桐が話をできるような状態ではなかった事が原因だった。
天国は、屑桐がもとから口数が多い方ではないことを熟知していたので、そう不審に思う事はなかったけれど。
そして、互いの自宅に着いた。
「あ、無涯。今日は泊まっていくの?」
天国はいつも通り、無邪気に聞いた。
無涯はその言葉に更に動揺した。
「い…っ、いや、いい!」
珍しく、口調がどもっていた。
「…そう?なら良いけど。んじゃ、またねー。」
天国はなんら疑問を感じることなく、家に入っていった。
屑桐はその後姿を見送ると、ため息を一つつき、自宅に入った。
その1時間後、明美は帰宅した。
「明美、お帰りーっ。」
「ただいまっ天国。」
明美は弟の姿を泣きそうなくらいに愛しいと思った。
そして、この感情を自分は押し込めなければいけないと強く思った。
そう考えていると。
「明美。無涯君から電話よ。」
「あ、うん。」
幼馴染からの電話。
彼が電話してくるのは珍しい。
用があれば直接来るのに。
「はい、どしたの?無涯。」
『明美?…話があるんだ。ちょっと出てきてくれないか?』
「?うん。すぐ行くよ。」
明美は受話器を置くと玄関の外に出た。
「明美。」
「無涯、あ、今日はありがとね。で、何の用?」
屑桐は思いつめた顔で、一言言った。
「好きだ。付き合ってほしい。」
To be Continued…
さてさて、動きが出てきましたね。
ここからもう少しシリアスになっていくと思います。
あー。できたら引かないでくださいね!!
あくまでこの話は屑猿であって屑明ではないですから!!
…って、完璧ネタバレっすね。
そろそろ予想つくかと思いますが、お付き合いくださいませんでしょうか。
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!!
まだ続きそうですみません。
これからもこの行き当たりばったり連載をよろしく〜・・・・。(力無い声)
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