ゆきのひ
都心に久々の雪が積もった日。
室内の練習だけではいつもの部活時間を消化できる筈もなく。
猿野天国は帰途についていた。
友人の誘いも数多あったが、なんとなしに断った。
理由があったわけでもなく。億劫というわけでもなかった。
ただ、本当に気まぐれの一人時間。
積もった新雪を踏む感触を楽しみつつ、静かな時間を感じた。
空気は冷たいが風もなく。雪がしんしんと降る様を眺めるのは、そう悪い気はしない。
さくりと音がして、独特の感触が足を包む。
「つべて。」
少し楽しそうにひとりごちて見る。
その時。
ふわりとやわらかなものが首を包んできた。
「え?」
「見つけた。」
驚いて振り向くと、そこにいたのは真っ白ないでたちの男性。
彼が今マフラーをかけてくれたのだ。
天国は彼を知っていた。
夏からの数か月で、誰よりも深く知るようになっていた。
「白雪監督…。」
「こんなところにいたんだ。」
にこり、と端正な顔を綻ばせる相手に、少し照れる。
「よく分かったっすね。」
自分が一人でここにいること。
仲間とはいなかったこと。
学校が早くに終わっていること。
全部が絡まりあわないとここにはいなかった。
「勘かな?」
愛がなせる技だね、とまた白雪は笑った。
「またいい加減なことを。」
どうせ辰羅川あたりから聞いたのだろう。
それも分かっていてそらとぼける。
(そういう人だよな、この人は。)
ふと相手の顔を見る。
しかし。
(顔…見づらい、かな。)
さっきより多く降ってきた雪が二人の間に入ってくる。
なれない雪は、視界を覆い隠していく。
白い白い白雪。
ぼんやりと見ていると。
急に首にかけられたマフラーをひかれた。
「わっ…!」
何を、と思っていると。
そのまま唇をふさがれた。
「ん…。」
「顔が見えないよ。家に入ろう。」
ね?とまた笑う。
そうだ、ここは。
「わざわざ来てくれたしね。」
白雪のマンションからほど近い場所。
そうだ、無意識のうちに来ていたのはここだった。
辰羅川に聞くことも、勘も白雪には必要ではなかったのだ。
「さ、入って。」
「…はい。」
ただ少し会いたいとあなたが思って外を見てくれたから。
ここに、二人はいた。
雪はただ静かに降っていた。
End
草代さくら様に一方的にさし上げました;;おうけとりくださりほんとうにありがとうございます!!
今年の冬はホントに雪が多かったですね。
寒いのは苦手ですが雪は嫌いじゃないので、少し楽しかったです。
雪が珍しいから言えることですがね;;
そんなんで雪の中の雪猿です。
恋人同士っぽくかけたからいいなーと思う文でした;;
戻る