誰かに似た人


私があの人に出会ったのはまだ子供の頃でした。
いつもよく遊びに行った路地裏で、泥にまみれて倒れていました。

その姿は黒尽くめで、子供心に警戒心を持つべき相手に見えました。
でも不思議と、怖いとは思わなかったのです。

私はその人に近寄りました。

「…ねえ…。」
「!」

私の声に驚いたのか、その人はびくりと身体を震わすと顔を上げました。
その顔を、私は知っていました。

街中に貼ってあるポスターに描かれていたからです。
でも小さな私は、そのポスターに書かれた字の意味はまだ分かっていませんでした。

それに、その人の目がとても…綺麗だったのです。
だから小さな私は、その場を動くことはしませんでした。

今思うと本当に勇気のある行動だったように思います。


そして、もう一つ私は気づいていました。
彼の顔が、誰かに似ていることを。
ポスターではなくて、もっと別の場所で見たことがあるように思ったのです。


そんな風に自分の思考に入り込んでいる間、彼はゆっくりと身体を動かしました。

「…もう行きなさい。ここにいてはいけない。」
私をいつくしむ様な優しい声でした。
その声はとても低く、そして深く響きました。

「…うん。」

私はその声に無条件で従いました。
そうさせるだけの力を、その声に感じたのです。


そして帰ろうと踵を返すと、彼は言いました。

「起こしてくれてありがとう、小さなマドモアゼル。」


優しい声でした。


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私はその夜、ママンにとても怒られました。
指名手配犯がうろついていてとても危ないのに、一人で歩いて、と。

私はポスターの人に会ったことは言いませんでした。

言ったら更に怒られるのもあったのですが、言ってはいけないような気もしたのです。


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それから数年して、私は16歳になりました。
修道院の近くで針子として働いています。


忙しい毎日の中、あのひとに出会った記憶はもう薄れていました。


「フィオラ、今日は公女様にドレスを届けに行く日だったわね。」
「あ、はいおかみさん。」
「悪いけど行ってくれないかい?急の仕事が入っちまってね。」
「わかりました。」

その日は珍しく私は修道院の門をくぐりました。
その修道院は、名門で。
貴族のお嬢様方の教育の場として運営されていたのです。

私は2着の豪華なドレスを持つと裏口の門(それでも随分と立派なものでしたが)から入り。
公女様へのお取次ぎの方を呼びました。


その時、私の目の端に映ったものがありました。


「…あ…。」


それは豪奢な絵画でした。


「おや、お前それを目にかけるとはなかなか目が高いね。」
絵画に見とれていると、取次ぎのお方が来られ感心したように言われました。


「いえ、あの…。」
私は絵画の素晴らしさに目をとらわれたわけではなかったので、少し慌ててしまいました。


ですがそんな私の様子を気にするでもなく、取次ぎのお方は説明をしてくださいました。


「これは数百年前、東欧で描かれたものだそうだよ。
 言い伝えだけどね、天使が悪魔を倒すため人と共に戦ったという話が残っているのさ。
 それはその伝説の図らしいね。」


「天使…この中央の男性ですか?」

「ああ、見たらわかるだろう?羽根が付いているのはこの男性だけだ。」


私は驚きました。


その中央の男性の顔、それは。


幼い頃に路地裏で出会ったあの人の顔だったからです。


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あれからさらに何年もたちました。


それでもふと、思い出します。


たった一度の天使との出会いを。



                                     end


まだVHにハマって間もない頃、自分と同じ顔の天使の絵を見たヘルシングをらくがきしまして。
それが今回のもとです。
…リハビリでごめんなさい。

オリキャラはベルばらのロザリー風の可愛らしい少女で。


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