放課後デート
「よお、花。」
「!」
少し低めの声に呼ばれ、月島花が振り向いた先には。
「天地。」
竜胆高校2年…そして虎視眈々と付近の学校を狙うグループのリーダー、天地寿がいた。
花にとっては最凶のライバルだ。
だが、そんな危険な存在に声をかけられたにもかかわらず。
花は警戒の色を見せなかった。
喧嘩の時に見せるあの燃え上がるような闘志はまだ見えなかった。
「久しぶりだな、元気か?」
にかっ、とあけっぴろげないつもの笑顔を見せた。
その顔に天地の方はかえって苛立ちを見せた。
「随分と余裕じゃねえか、さすが鈴蘭の大番長狙うだけあるな。」
「そっか?」
花はまだ笑みを崩さない。
皮肉も通じないのか、と天地は臍を噛む思いだった。
もっと、焦るようなおびえるような、そんな眼差しを他の奴らなら見せるのに。
何故、こいつだけは。
「お前が余裕なさすぎなだけじゃねーの?」
「!」
花の言葉に、天地は即座に反応する。
そして。
持っていたナイフを取り出し。
「!!」
花の首筋に当てた。
「…あんまりおしゃべりがすぎると、命取りだぜ?花。」
「……。」
花は一瞬驚き、天地を満足させた。
花をおびえさせた、と思った。
だが。
花はすぐに落ち着いた眼差しに戻る。
見守るような、そんな眼差し。
「なん…で…っ…。」
「天地?」
ぐい、と天地は手のナイフに力を込める。
「っ…。」
ナイフは花の首筋の皮膚をかすかに裂いた。
血が一筋。
「びびれよ!怯えろよ!焦れよ!!お前首から血ぃ出してんだぞ?
オレがちょっと力入れたら死ぬんだぞ?!
何でそんな落ち着いて…!!」
「お前そんなことしねえもん。」
こともなげに、花は言った。
笑って。
カラリ、とナイフの落ちる音がした。
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「ただいまーっ。」
「お、花。おかえり。」
梅星家に帰宅した花を出迎えたのは、藤代拓海だった。
「あれ、拓海今日は早いな。」
「ああ、本城さんが今度の日曜休むからその代わりに今日…って、おい、花!」
「え?!」
突然血相を変えた拓海に花は驚く。
だが拓海は驚いている間に花の顎を持ち上げると。
「いっ…!」
「これ…誰にやられたんだ?!」
天地につけられたナイフの跡を、見た。
深い傷ではない、だが場所が場所だけに拓海の血相を変えさせるには充分だった。
「いや、これは…。」
流石に天地につけられた、とは言えず。
言葉を濁すと、拓海は珍しく食い下がった。
「言え。花。
誰にやられた?」
鋭い眼で、聞いた。
「…。」
「…オレに言えねー相手ってことか?」
「……ん、まあ…な。」
苦笑し、なおも言葉を濁す花に、拓海は一つ大きくため息を吐いた。
「…仕方ねえな、けどその傷はすぐ絆創膏はっとけよ。
迫田や蓮次に見られたら…ごまかせねえぞ?」
「ああ、そうだな。」
花は、見逃してくれた拓海に感謝しつつ。
この首の原因を思い浮かべていた。
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「なんで…お前だけ…。」
俯いてぼそりぼそりと言葉をつむぐ天地に、花は落としたナイフを手渡した。
「ほれ。
あんまりこーゆー威嚇すんなよ。引っ込みがつきにくくなるからな。」
花はまた笑う。
「……。」
その笑顔をぼんやり見た天地は。
す、と音も無く手を伸ばすと。
「あま…?!」
花の身体を抱きしめた。
「……。」
「…おい…?」
「お前が…いるから…。」
「天地…?」
お前がいるから おれは おかしくなる。
その声を花ははっきりと聞いた。
それを言ったすぐあとに、天地は花を離すと 雑踏に消えた。
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花は首につけられた傷跡を見て。
一つ息をつくと。
絆創膏を傷に貼った。
それは誰の傷だったのか。
「…とんだ放課後デート、だよな。」
花は鏡を見て。
少し哀しげに 笑った。
end
超久々のWORST更新です!
しかもお題にまったく沿わないエセシリアス…。
天地君こんな簡単に弱さをさらけ出すタイプでは決してないでしょうけど。
まあ願望だしまくりというところですね。
時間軸としては世良くんに挑む前くらいです。
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