もしも啓太が女の子だったら!


滝俊介編






伊藤啓太がベルリバティスクールに転校してきてから数ヶ月。
いろいろあって啓太は2年生の滝俊介と恋人同士になった。

ところが、最近。

滝俊介は溜息交じりの生活を送っていた。


「どうしたんだい俊介?このごろ溜息ばっかりじゃないか。」

今日も食堂でぼんやりと溜息をはく滝に、声をかけてきたのは同学年の成瀬由紀彦だった。

「…なんや由紀彦か。デリバやったら放課後聞くで…。」
やはり滝の様子がおかしい。


成瀬は愛しい愛しい啓太から、滝の様子がおかしいのでそれとなく聞いてくれないかと頼まれていた。
啓太から頼まれるのはうれしい事だったが。

成瀬は正直なところ滝に腹を立てていたのだ。

なんせ啓太は成瀬にとって心の奥底から愛する存在なのだ。
なのに滝に奪われ、まあそれが啓太の幸せならと思っていたのに。

この上啓太を心配させたりするのならほうっておくわけには行かなかった。


「違うよ俊介。 最近元気がないけどどうしたのかと聞いてるんだよ。
 君が元気なくすのは勝手だけどね、それで啓太まで心配させるようじゃ
 俺としては黙ってられないわけなんだけど?」
 たっぷりと棘のついた言葉を滝に送った。
 
 すると。


「ちょお待て。啓太がなんやって?」

さすがに啓太の名前を出すと、滝は反応する。
その様子を見ていると、滝も啓太のことは本気で大切に思っていることが成瀬にもよくわかった。


だからというわけでもないが。
愛する啓太のため、成瀬はとりあえず敵に塩を送っておくことにした。


「…啓太も心配してたよ?俊介が元気がないけど、言ってくれないから
 もしかしたら自分と付き合うようになったのを後悔してるんじゃないかってね。」



その言葉に滝は驚いて激昂した。


「な…っ!んなワケあらへんやろ!!
 オレ啓太のことマジで好きやし、つきあえるようになってめっちゃ嬉しいねんで?!
 後悔なんてするわけあらへんやないか!!」

「……それは啓太自身に言ってくれるかな?
 俺に惚気聞かせてどうするんだよ全く。」

こっちは悔しがってるのに、と表情に出しながら。
成瀬は本題に戻った。

「じゃあ教えてもらえるかな俊介?
 啓太を悲しませてる君のうっとおしい溜息の原因をね。」


やっぱり棘がいっぱいの成瀬の言葉に。

友達ってありがたいなあと引きつった顔をする滝だった。





原因はつまりこうである。

滝はMVP戦の間啓太とともにいて、いつしか啓太に惹かれていた。
男なのに、と悩んだりもしたがそんなことは問題にもならないくらい、急速に惹かれていた。

だが、ふとしたこと(啓太に件のことで泣きついたとき)で啓太が女であると知り、
また啓太も自分を思っていることを知り。

二人は恋人同士になった。


(成瀬には啓太が女の子だったことはさすがに伏せたのだが)


しかし。
啓太と並んで、滝はあることに気づく。
今までもわかっていたことだったのだが。

啓太が女の子だと思うとなおのこと気になる。

自分の身長が、啓太より低いことが。




「…で、男としてそれが嫌だと、そういうわけ?」

「そーゆーこっちゃ。
 何か情けないやんか…160代しかないっちゅーんわ。」

啓太が女のわりに170cmと大柄なせいもあるが、やはりその。

年上でしかも男なのに、と気持ちが落ち込んでしまう。


それでなくとも、啓太の周りには自分よりもきれいな顔立ちで、
180cm以上という啓太の身長にばっちりつり合う体型、しかも頭もよく…という男は多い。


(王様とか副会長はんとか、七条とか由紀彦とか…。
あ〜170cm以上でも寮長はんとか…女王様も啓太よりでっかいし、
いっつも一緒にいる遠藤も…。
そういえば岩井さんも結構でかいんやんなあ…。)



はああああああ。




「…アホらしい。」

「はあ??!!」

あまりと言えばあまりな成瀬の言葉に、滝は勢いよく立ち上がり、怒りをあらわにした。



「アホらしゅうて悪かったな!!
 そらお前はええやないか!
 背ぇは高いし、カッコええし、何でもこなすしな!」


そこまで言うと、今度は成瀬のほうが目をむく。

「ああそうだね。

 俺のほうが20cm近く高いし、君みたいに子供っぽい外見じゃないしね!
 


 だけど!啓太が選んだのはお前だろ俊介!!」

声を荒げた成瀬の言葉に、滝ははっと気づく。


「啓太が身長で人を好きになるような子ならそれでもよかったさ。

 だけどそうじゃない。

 どんなに小さい体だろうがなんだろうが啓太が選んだのはお前だろ。

 …そんなくだらない事で啓太を悩ますんじゃない。」



そこまで言うと、成瀬は席を立った。


「……。」
滝は、先ほどの成瀬の言葉をかみ締める。
自分の軽率な考えに、一番大事な啓太を傷つけるところだった。
それに成瀬は気づかせてくれた。


「あの…由紀彦…。」

「…礼はいいから早く啓太のところ行けば。中庭で落ち込んでたよ?」


「悪い!礼に今度のデリバ無料で引き受けるで!!」


そういうと、食べかけの食事もそのままに滝は走り去っていった。


「ったく。何を気にしてるんだか。
 啓太は…そんなこと気にするような女の子じゃないのにね。」
成瀬は小魚や牛乳パックが沢山乗ったトレイを苦笑しながら見た。





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「けーたー!!
 オレお前のこと愛してるで〜〜〜!!」


「しゅ、しゅんすけ??!!!」


人の大勢いるなかで大告白をぶちかます滝を、啓太が一発殴ったのは、まあご愛嬌…だろう。






end


やっぱり俊介には身長コンプレックスがあるんじゃないかと。(^^;)
オチはよわいけど・・・たのしかったです。

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