彼方へ 


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(ガブリエル…!?)



天界の一室。
ミカエルはその日の任務に当たっていた時、自らがかけた守護が働いたことに気付いた。



だが、いかにミカエルとはいえ、何の手だてもなしに迅速かつ詳細に友に
起こった出来事を把握することは不可能だ。


そして、今のミカエルにそれを可能にする手だてを実行する事はできなかった。





自らのかつての分身の気配が現れていたのだ。





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その頃地上では、アンナ・ベルがガブリエルの言葉を
自室で反芻するように思い起こしていた。

(私に…赤ちゃんが…。)

愛していた夫の子。

今は5か月頃だと、ガブリエルは言っていた。


忘れもしない、夫が戦場に向かう前日の、最後の夜。
あの日にこの命は宿っていたのだと。

(あなた…。)

亡き夫を想い、アンナ・ベルは決意を固めていた。
この命を必ず守る事を。

例え兄が何を考えていたとしても。


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1週間後、アンナ・ベルは母と兄の前に説得に訪れた。
「まあ、何を申しているのか。理解に苦しむ事。」
意を決して家族に話したアンナ・ベルの言葉を、聞きたくもないと言わんばかりにたち切ったのはエリディアだ。
「お母さま…信じられないことと思われるのは無理もないと思います。
 でも、ヴラディスラウスお兄様は…。」

エリディアの変わらぬ冷たいそぶりにも、アンナ・ベルは屈するわけには行かなかった。
ガブリエルの様子を見て、兄が何か恐ろしいことを成そうとしているのは疑いない。

しかし、この事をガブリエルから説明させるわけにはいかなかった。

自分の家族が起こした問題を、これ以上ガブリエルの負担にはしたくない。
だから、ガブリエルが眠っている間にアンナ・ベルは実行したのだ。
父・ヴァレリアス伯はこのとき領地の視察に出かけていたが、後からでも父であれば話は聴いてくれるだろう。

それしても、なぜガブリエルがここまで兄に、そしてこのヴァレリアス家に関わってくるのかは分からない。
優しさだけではないこと、兄への友情のためだけではないことはアンナ・ベルにもうすうす感じられることだ。
だが、今は目の前の問題をなんとかしなければいけない。


家族と…そして、何よりもこの子の為に。



しかし。


「アンナ・ベルさん?貴女は本当に想像力が豊かなこと。
 …ヴラディスラウスのような子にそんな大それたことができるわけはないでしょう?
 ああ、ラドゥラスのような美しく優れた優秀な子なら神に近づくかもしれないけれど。」


「…!」

エリディアは頭からアンナ・ベルの言うことを否定する。

そう、昔からこの女性はそうだった。

自分が嫌いなものは全て否定し、視界から排除し、思考をめぐらすなど不可能だった。

だが、アンナ・ベルもその程度のことは予測している。
ここで引き下がるわけにはいかなかった。


「お母さま、私は冗談や想像でこんなことを言っているわけではございません!
 事実、ガブリエル様は……っ。」

アンナ・ベルは言いよどんだ。
ガブリエルに害をなしたこと、もしこの場でエリディアに、そしてそばにいるラドゥラスに言えば。

だが、次にそばにいたラドゥラスが口に出した言葉は、まったく別のことだった。


「ああ、そういうことか。
 アンナ・ベルはガブリエル様と駆け落ちしようと、そう思っているわけだ?」

「?!」

アンナ・ベルにはラドゥラスが何を言っているのか、理解できなかった。
そしてたたみかけるように発せられたエリディアの言葉にも。


「まあ…でもどりの身でなんと恥を知らないこと。
 それにしても子まで成すとはねえ…。」


「な…!!」


エリディアは、ラドゥラスは知っているのだ。
自分のおなかに、子どもがいることを。

だがその事実を、恐ろしくねじまげて解釈しているのだ。


「ち、違います…!!この子は、エドワルドの…!!」



必死で弁解するアンナ・ベルの言葉など、二人の耳には無いも同じだった。
ただ、うろたえるアンナ・ベルの反応だけが全てだった。

「やはりガブリエル様の子だったのだね、アンナ・ベル。
 どうやら君は私が思っているよりよほど手が早かったらしい。」

「まったくはしたないこと…。」

許しがたい思い違いを無理やり推し進める二人を。アンナ・ベルは信じられないという面持ちで見た。

だがそんなアンナ・ベルの様子など意に沿わせず。
エリディアは言葉を続ける。


「……でも、今回はほめてあげましょう。アンナ・ベル。

 すばらしいわ…わがヴァレリアス家から公爵家の血を持つものが生まれるのですもの。」

「な…?!」



「逃がすものですか…こんなチャンス、もう二度とないのよ?

 逃がしはしないわ…アンナ・ベル。」



アンナ・ベルは呆然とする。
エリディアの眼には野心の炎が見て取れた。



もう、この二人には自分の言葉は届かない。
そう悟ったとき。







「ほう…、ではガブリエルは私の義弟となるというわけだね?」


低く響く声が、アンナ・ベルの背後から聞こえた。




「…お…兄…さま…。」




ヴラディスラウス・ドラクリアはこの日、3週間の旅路を終えて城に戻ったのだ。
 
 





 To be Continued…


 予定よりかなり早く戻ってきましたお兄様!!
えらいこと聞いちゃいましたね〜〜勘違いですが。
そろそろ…お待ちかねの出来事が起こるかも…。
 
いつもいつも長〜く期間が開いてすみません…。
 

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