彼方へ
第二部
20
「ひっ…。」
ヴラディスラウスの腕が突然マリーの足をつかんだ。
そして信じられない速さで引きずり倒す。
「きゃああああ!!」
「マリー!」
「やめろ!離せヴラディス…!」
「…エル…。」
表情を焦燥に変えるガブリエルの耳に、ヴラディスラウスの声が響いた。
『はなさない…お前は…私の…。』
「……!!」
もしも このまま
マリーの足を掴む手が、少しゆるんだ。
それに気付いたハロルドがすかさずマリーを抱き寄せる。
だが、完全には離れない。
「ハロルド…っ!」
「大丈夫だ、しっかり…!」
その時。
ヴラディスラウスの手をガブリエルが掴んだ。
「ガブリエル…っ…。」
助けて、とマリーは今この場でもっとも力を持つ存在に視線ですがった。
「マリー、大丈夫……。」
ガブリエルは安心させるようにマリーの方に目を向けた。
次の瞬間。
「ガブリエル!!!」
「あ…」
マリーの足から腕が離れ、見るまもなく巨大化する。
視界を全て覆い尽くすような黒い蝙蝠の翼が現れる。
そしてその全てが、目の前の天使の姿を包んだ。
「ガブリエル!!!」
咄嗟にマリーは目の前にある腕をつかむ。
助けなくては。助けなくては。
このままではこの人が。
「ハロルド、ダスティ!助けて!!」
「あ、ああ!!」
「分かった!」
あまりの出来事にあっけに取られていた二人も、マリーの言葉に正気を取り戻したのか。
ガブリエルの救出に動いた。
「くっ…!なんて力だ…!」
「往生際の悪い…!!」
「ガブリエル!大丈夫か?!あなたも振りほどいて…。」
そう言いながらマリーはガブリエルの顔を見た。
そこにある感情に、マリーは驚く。
ガブリエルは、マリーの手から言葉を伝えた。
『離してくれ。』
「…え…?」
心に響いた言葉は、さらにマリーを愕然とさせた。
何を言っているのだ、この人は。
『この扉は後戻りできない扉…もう私はここから出ることができない。』
「そんな…何を…。」
『このままでは君たちも沈む。
さあ…。』
「いやだ!!そんなことできない!
アンナもあなたを、父上を待ってるのに…!!」
「マリー?!どうしたんだ?!」
「おい、しっかりしろ!」
後ろで必死になっていたハロルドとダスティはマリーの言っていることが分からなかった。
だが、そんなことは問題ではなかった。
「早く!早くこっちへ…!」
もう何もかも失う人を増やさないで。
あなただけは、せめて。
ただ一心にマリーは願った。
『マリー…ありがとう。』
「え…?」
『大丈夫だから。必ず……。』
マリーはその時はっきりと見た。
ガブリエルは笑っていた。
どこか儚くて…すまなそうな笑みを…。
バシッ
「きゃああ!!」
その時、ガブリエルを包んでいた黒い翼が突然マリーの身体を跳ね飛ばした。
「うわあっ!!」
「ぐっっ!」
後ろにいた二人も巻き込み、聖騎士団の3人は後ろに叩きつけられた。
「ああっ!!!」
マリーが身体を起こした、そのとき。
ガブリエルごと、全ては鏡の向こうへ消えた。
その瞬間、鏡は地図へと戻っていった。
扉はきえたのだ。
「あ…あ…。」
「…ガブリエル…が…!」
「くそ…っ!なんてこった…!!」
マリーは手に残る跡を見た。
そこには、まるで聖痕のように傷が残っていた。
「ガブリエーール!!!」
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永遠の氷の城。
そこに二人は倒れていた。
ふと、ヴラディスラウスの意識が戻る。
身体を起こす。
そこに、最も求めていたものがいた。
「ガブリエル…。」
まだ気を失っているのか、目を閉じている。
だが、かまうことなどなかった。
ガブリエルの身体を引き寄せ、口付ける。
もう二度と、離さない。
「ふふ…ははははは…はははははははは…!!!」
氷の城は今、新たなる主を迎え その扉をゆっくりと開けた。
第二部 完
やっとやっとやっと!終わりました!第二部完結です!
苦節1年9ヶ月!一部より長くかかってます…。
ここまでお付き合いくださりほんとうにありがとうございました!!
次は幕間の予定です。
なるべく裏に向くように話を持っていくつもりですので…(笑)
第二部完結し、ここまで読んでくださった皆様に心より感謝いたします!
本当に本当にありがとうございました!
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