彼方へ


20





胸の中の渦が大きくなっていくのを感じていた。

どんどん どんどん 加速して。


止めることすら思いつかないほどに。





「お兄様…いつお帰りに…。」

今の話を明らかに聞いていた様子のヴラディスラウスは、アンナ・ベルににっこりと微笑んだ。
「つい先ほどだ…。
 それにしても…知らなかったよ。アナ。
  ガブリエルとそれほどまで深い仲だったとはね。」

表面的にはやわらかい声が、アンナ・ベルには冥府からの声のように聞こえる。

その感覚は決して間違いではなかった。

アンナ・ベルの懐妊の話を耳にしたヴラディスラウスは。
内臓が焼け付くような想いにかられていたのだ。




そうか やはりそういうことだったのか

この女は 私からガブリエルを





『渡すものか…。』

ひっそりと唇の中でつぶやいた声は、アンナ・ベルにしっかりと届いていた。

「お…にい…さま…。」
震えを帯び始めたアンナ・ベルをもう一度一瞥すると。

ヴラディスラウスはエリディアに言った。

「とてもおめでたいことですね…。
 ああ、私はガブリエルに祝いの言葉を言わなければ。
 失礼いたします、母上。」

「それは感心なこと。
 でもラドゥラスのほうを先に…。」
エリディアの言葉に、しかしラドゥラスは答えた。

「いいえ、こういうものは長兄である兄上からおっしゃるのがよろしいでしょう。
 今は父上もおられませんし…、それに兄上はガブリエル様ととても仲がよろしくていらっしゃるのですから。」
含みを持った言葉は、しかし今のヴラディスラウスには何の効果も得なかった。

「まあ。ラドゥラスはやさしいこと。
 ではヴラディスラウス…ガブリエル様によろしくお伝えしておくのですよ。
 もう夜も遅いので、私たちは明朝にいたしましょう。」

「ええ…承知いたしました、母上。」


口元を歪めたヴラディスラウスの笑みは、アンナ・ベルに恐怖を覚えさせる。

だが。

「お兄様…!お待ちください! 先ほどの話は…。」

今ガブリエルのそばにヴラディスラウスを行かせるわけにはいかない。
殆ど直感のみでアンナ・ベルは兄を引きとめた。

「何を心配しているのだい?アナ。
 …義兄弟として契りを交わすだけのことではないか…?」


そこに現れていたのははっきりとした狂気と、そして自分への敵意。
アンナ・ベルは心が凍りついたように。

立ちすくんでしまった。




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パタン…。


ヴラディスラウスは、ガブリエル部屋にたどり着き、ドアの鍵を閉める。
そこに、眠り込んだままのガブリエルがいた。

ヴラディスラウスの呪印から、まだ身体が回復しきっていないため、いつもより深い眠りで。

だが、それは今のヴラディスラウスにとっては大した意味を持ってはいなかった。




ヴラディスラウスは、そっとガブリエルの眠るベッドに腰を下ろす。
そして眠るガブリエルの頬に触れた。


「ガブリエル…私の、美しいガブリエル…。」


頬を伝う指に、まだガブリエルは覚めず。
いとおしい寝顔にヴラディスラウスは優しく触れる。


その時、ドアを叩く音が響いた。
 
アンナ・ベルだ。

「お兄様…お兄様!!
 ガブリエル様に何をなさるおつもりですか!!
 おやめください!!お願いですお兄様!!」


アンナ・ベルは必死だった。
兄に罪を犯してほしくなかった。
厳しくて、でも優しく自分を見つめてくれた兄に。
大事な兄に、罪びとになどなってほしくなかった。


だが、そんな妹の叫びは。
兄には届かなかった。



ヴラディスラウスにとって、アンナ・ベルの声は邪魔なものでしかなくなっていた。


ヴラディスラウスは、アンナ・ベルに聞こえるようにドアのそばまで行くと。
低く、冷え切った声で言った。

「邪魔をするな…これ以上邪魔をすれば…。」




殺す。




「…!!!」




そして、ヴラディスラウスはドアに封印を施した。

アンナ・ベルの声が届かないように。




ヴラディスラウスは封印がかかったのを見て取ると、再びガブリエルの傍により。

今度は、ガブリエルに覆いかぶさるようにベッドへと上がった。

ぎしり、とベッドが軋む。

ヴラディスラウスはそっとガブリエルの唇にキスを落とす。
何度か、口付けた場所。
そしてそのたびにたとえようの無い幸福を感じさせてくれた。


それは今度も同じで。
ヴラディスラウスは、ガブリエルの姿を前に、眼のくらむような昂揚感を感じていた。


人を愛すること、人を欲することを、ヴラディスラウスは全身で理解した。

全ては、目の前のいとしい人が教えてくれたこと…。



ゆっくりと、ガブリエルの纏う衣服を解いていく。
眠ったままのガブリエルの身体は、次第に露になっていった。



美しい身体だった。



筋肉の程よくついた体型、滑らかでしみ一つ存在しない美しい肌。
ガブリエルの全てが、ヴラディスラウスを魅了した。


「愛している…ガブリエル。」
いとおしい気持ちをそのままに、ガブリエルの肌に口付ける。


その唇に、首に、肩に、腕に、胸に、脚に、中心に。

「ん…。」
口付けの跡が増えていくたび、ガブリエルは身を動かし始めた。

「夢から…覚めたか?ガブリエル…。」
狂気と欲におぼれるような瞳でガブリエルを見つめながら。

ガブリエルのそれに触れ、ゆっくりとこすりあげる。

「ん…っあ…ぅっ。」
背をかすかに反らせながら、ガブリエルの身体は反応を始めた。

「きれいだ…とても美しい。
 すばらしいよ…ガブリエル。」


「っ…!!」

そして、後孔に何かが触れるのを感じたとき、ガブリエルの意識は覚醒した。


「ヴ…ラディス…?」
何がおきているのか分からなかった。


旅に出ているはずのヴラディスラウスがここにいること。

寝ているはずの自分の上にいること。



そして、今この瞬間に汚されようとしていることを理解したとき。



「や…やめ…っ…!」



ズッ




「あ…あーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」


深く深く、ガブリエルの身体をヴラディスラウスは貫いていった。



そのとき終わり、始まった。



                                               To be Continued…





大したこと無いですが…やっちゃいました〜〜。ついに。
裏っちゅーほどでもないんですけど、まあ一応。
もうちょっとばかしこーゆーの続きますが…描写には期待しないでください。下手なんで…(T▽T;)

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