彼方へ



25





「ガブリエル、ここにいたのか。」

「やあ。今日は兄上のおこしか?」

「あいつも来たがっていたがな。今日は任務だ。
 それで私が脱走好きの大天使殿を迎えにいく光栄を預かったわけだ。」

「脱走とは心外だ。散歩だよ散歩。」

「仕事中のか?」

「…すぐ戻るから。」

「全く、お前も分からんな。何故あのような蛮なる生を好む?」

「酷い言い方だな。あれは御主の創り給うた存在だぞ?」


「だからと言って何故我々まであの輩に従わねばならぬのだ…?
 私や…弟や…お前たちまで。」

「…それくらいにしておけ。不遜ととられかねない。」


「……ああ。」




「戻ろう…ルシフェル。」




「…っ!」

「目覚めたかガブリエル。」
冷たい汗とともに覚醒したガブリエルに、声がかかる


「ラファエル…!?」

そこにいたのは大天使ラファエル。
赤茶色のすこし癖のある短髪に、海の色の瞳の持ち主だった。



(ではここは…。)
ラファエルの治癒の場。
つまりは他の何者の気配をも絶つ独立された場所だ。

ミカエルは、御主にも内密に、彼の回復のためにここにつれてきたのだ。

そして御主よりもなによりも…あの目から逃れるために。


そこまで思考がわたったとき、あることを思い出した。


「ラファエル!!ミカエルは?!ミカエルはどこだ!?」
突然のガブリエルの激昂に驚きながらも、ラファエルはガブリエルを宥める。

「落ち着くんだガブリエル。
 まだ体がほとんど回復していないのだぞ?この状態では…。」

そう。ガブリエルの魂…本体となる部位は明らかに磨耗していた。
ラファエルも驚きを隠せなくなるほどに。

ミカエルが早急に連れてこなければ、遅かれ早かれ御主にも気づかれていただろう。

だがガブリエルは自分の体の状態に心を向ける気にはならなかった。


ミカエルは、ヴァレリアス家の者を全て見捨てたのだろうか。
いや、ミカエルは一人は助けられると言っていた。

このような選択はしたくはないが、せめて彼女だけでも助けたかった。

その様子に、ラファエルはミカエルの伝言を伝えた。

「落ち着けガブリエル!大丈夫だ。
 ヴァレリアスの長女はローマの寺院に預けたとのことだ。」

「あ…。」

その言葉は、ガブリエルにかすかな安堵をもたらす。
だが。

「では…他の…ヴラディスの…ヴラディスラウス・ヴァレリアスの両親は…弟は…。」

ラファエルは、申し訳なさそうに言った。


「……今は、回復に勤めるんだ…ガブリエル。」
その言葉はガブリエルの言外の質問を肯定するものだった。

そして、ガブリエルは失意の色を隠せなかった。

「眠るんだ、ガブリエル。
 私の力なら…1ヶ月ほどで元の状態に戻せるはずだ…。」

「1ヶ月…。」
大天使の強大な力を戻すのに、1ヶ月は驚異的な短さではある。
だが、ガブリエルは喜ぶことは出来なかった。




守れなかった。

罪を、重ねさせてしまった。
 



1ヵ月後…全てを終わらせなければいけない日は、決まった。


ガブリエルの閉じた瞳に、一筋の涙が光るのを。

ラファエルは静かに見つめていた。



#########


「ミカエル様。ガブリエル様の治癒が始まりましたのでご報告いたします。」

「分かった。…こちらもそろそろ時間だな。」


本来の業務をこなしていたミカエルは、そろそろローマのアンナ・ベルが目覚める頃になるのに気づいた。


「そちらは、ヨフィエルが向かいました。」

「分かった。」
ガブリエルの腹心なら、問題はないだろう。
そう思いながら、ミカエルは今度は別の時間が近づいているのに気づいた。


「では、地上に…。」


そのとき。


「ミカエル様!!緊急連絡でございます!!」
情報収集の係りのものが突然報告に来た。
よほどの急用なのか、青ざめている。

ミカエルはこちらの用件を優先することにする。


「報告を聞こう。」

「はい!東ヨーロッパ…トランシルバニア近くに魔の気配が感知されました!」

その報告に、ヴラディスラウスが動き出したのだとミカエルは判断した。
しかし、その判断は微妙に違っていたことに、次の報告で気づく。

「しかも…前代未聞の強大な力を感じます。
 これはまるで…。」

そこまで言って、係りの天使は言いよどんだ。


「何だ。はっきりと報告せよ。」


その言葉に、覚悟を決めたのか、意を決して彼は口にした。


「この強大さは…恐れ多くもミカエル様に匹敵…いえ、それ以上の力を秘めた物の存在を意味していると判断されます。」



「!!!」



その言葉にミカエルの心は一瞬凍りついた。




「それは…。」




太古の昔、封じられた彼の半身。



天から落ちた明けの明星、曙の子。


いと高きを望み。


陰府へと堕ちたかつての天使の長。



「ルシフェル………・!」



                             To be Continued…


…なんか今回は天界ばっかでヴァンヘルの話には見えませんね…。短いし…。
次は人間界です。ちゃんとヴァンヘルな話にします!

さてやっと真っ黒な黒い幕が出てきました。
この話ではミカエルとルシフェルの双子兄弟の兄と弟、勝手に決めてます。
実際はどっちがおにーさんでどっちが弟くんなのか私は知らないです…。
まあ気分(というか萌え?)でルー兄さん、弟ミカに決定。違ってたら気にしないでください。

何故彼が出てきたのか。予想はつくと思いますが…。
多分予想通りです。ベタな話で総受けな話が大好きですので!!すみません!!


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