彼方へ


29


「ヴラディス…すまない…。」

ガブリエルは血にまみれながら、倒れたヴラディスラウスの身体を抱き寄せた。


「許して…くれ…。」

殺すしかなかった。
殺すしか方法がなくなるまで追い詰めてしまった。


傍にいたのに…。



もうヴラディスラウスは動かない。
血は止まらない。


ガブリエルの刃は確実に彼の心臓を貫いていた。



「ヴラディス…。」




ガブリエルは強くヴラディスラウスの力ない身体を抱きしめた。







その 瞬間。






近づいていた上空の渦の中心に、暗雲が現れた。



ガブリエルはその気配を、全身で感じとった。
そして、腕にヴラディスラウスを抱いたまま視線を向けた。




そこに。





「ルシフェル…。」


ガブリエルは身体を硬直させる。




「やあ、ガブリエル。」



親友と同じ顔の、しかし満面の笑みをした。

悪魔の王がいた。



ルシフェルは、ガブリエルの腕の中のヴラディスラウスを見ると、困ったような顔をした。


「おいおい…ガブリエル、何を勝手なことをしてくれたんだ?
 それは、私の身体だぞ。
 傷をつけるなんてひどいじゃないか…?」

ルシフェルの言葉に、ガブリエルは推測が当たっていたことを知った。


「やはり…ヴラディスに入るつもりだったのだな…。」


「何だ、知っていたのか?
 
 つまらんな。

 お前の驚く顔がしばらくぶりに見られると思っていたのだが…。」


「知ったことか!
 
 だがもう遅い…。この身体は死んだ。
  
 たった今私が殺したのだ!」


殺したくなんかなかったのに。

だが、これで…少なくともルシフェルの目論見は阻止できた。


それだけは起こってはならないことだったのだから。



だがルシフェルは何を言っているんだといわんばかりに嘲笑した。


「ははははは!ガブリエル、お前にはそう見えるのか!?」


「な…何がおかしい?!」


ガブリエルはヴラディスラウスを抱く腕に力を込めた。



ルシフェルの意図は分からない。
だが…。






「よく見るんだガブリエル。
 
 ほら…そいつはまだ立派に息をしているじゃないか…?」


「何…?!」



ガブリエルは腕の中のヴラディスラウスを見る。



愕然とした。



浅い吐息。



先ほどより小さい傷跡。




まだ、ヴラディスラウスは生きていた。




「な…これは…。」




「そいつは龍の血を受け継いでいるからな。
 
 人間よりよほど強靭な肉体だ…私の魂を受け入れられるほどの。


 最も…そのままほうっておけば死ぬのは間違いないがな…。」



「あ…。」



一瞬。安堵の気持ちが心を掠めた。




しかし。




「良かったな、ガブリエル。

 これでお前の愛したその者の身体は永遠に生きる…私の身体としてな!!」


「!!」




強大な力が、ヴラディスラウスの身体をガブリエルの腕から浚った。



「あぁっ!!」




「ははははははははは!!」

高らかに笑うルシフェルの頭上に、ヴラディスラウスの身体が浮き上がる。




「やめろ!!やめてくれルシフェルーーーーーーーーーー!!」




「さあ、地上の肉体を!!

 私の支配する地の誕生を!!」



ルシフェルの姿が光芒となり、ヴラディスラウスの心臓部に向かった。





「やめろおおおおおお!!」





ガブリエルは空に吼えた。







                                       To be continued…



行間あけすぎだ…。
文自体は短いです。すみません…。


戻る