彼方へ

第三部



北の大地の果て。
氷に覆われた巨大な城。
そこは永遠の悪魔の牢獄。

だが、そこにいるのは天使。


そして。


「う…ぁ、あ…。」
「苦しいか?ガブリエル…。」

もうどれくらい時間がたったか把握することは、
ガブリエルにはとうに困難になっていた。

鏡の扉を抜け、目が覚めてからずっと彼の腕に抱かれ続けている。
肌に口付けられ、その手指に翻弄され、身体だけではない、
魂も快楽に溶けそうになっていた。


「ダメ…だ…っ…もう…離して…くれ…。」
「離すものか。」
「うあっ!」

懇願は冷ややかな声と共に、後腔の奥を突き立てられ消される。

「ああ…もう後ろだけで達することができるな…?
 それとも、本来性のないお前には関係のないことか?」

「ぁ…それは関係な…ぁっ……。」
「そうだな、関係のないことだ。お前が男での身体でも女の身体でも…。
 こうすることには…な!」

「やぁあああぁっ」

言葉と共に激しくつかれ、ガブリエルの身体は一瞬の解放の後に弛緩する。


「う…う…。」
「ガブリエル…。」
重ねられる罪と逃げられぬ快楽にガブリエルは憔悴していた。
だが、彼…ヴラディスラウスはガブリエルの身体を離す事はしない。


執拗な抱擁はガブリエルに大きな負担を与えていた。
身体だけではない。
憎まれているのかとさえ思われるほどの激しい行為に、ガブリエル自身が傷ついている。



「もう…離せ…私は…天に仕え…。」
広大な城に設えられた主人の寝台に身体を伏せ、力を失いながらも。
ガブリエルは何度言ったのか分からない言葉を口にした。


「まだ言うのか?くく…強情だな…。」
伏せられた身体から身を起こし、ヴラディスラウスはガブリエルの背を見下ろした。

「天など関係ない。私を、そしてお前を閉じ込めてくれたのは感謝しているがな。」

ヴラディスラウスは楽しげに笑う。
人が天使が牢獄と言ってもここは彼にとって楽園以外なにものでもない。
唯一の存在とただ二人きりでいられる、無限の時間がある。

望んだものは全てここにあるのだ。


「お前も…そうではないのか?」
私を愛しているだろう?
そう言外で聞きながらガブリエルの背に口付けを落とす。


「……。」

「ガブリエル?」

答えないガブリエルに、ヴラディスラウスはもう一度声をかけた。


すると、嗚咽が聞こえだした。


「…ガブリエル。」
「…どうして……お前を裏切った…私を…。」

「……。」


少しの言葉と、わずかな無言の後。
ヴラディスラウスは突然声を上げて笑った。


「くくく…ははははは!」
「!?」
次の瞬間、ガブリエルは身体をかかえ上げられた。
そのまま反転させられ、ヴラディスラウスと向き合う体制になる。

そう思った瞬間、ガブリエルの唇は塞がれていた。
「ん…っ…。」


触れるだけのキスのあと、ヴラディスラウスはガブリエルの眼を見つめ。
言った。


「優しいことだな。だがそんなことを気にする必要はないが。」
「…ヴラディス…?」

「お前が裏切ろうが私を殺そうとしようが、それこそ関係のないことだ。
 
 お前が何であれ私はお前を欲した。
 これからもだ。」

「……!」


「何があっても離すつもりはない。
 逃がさぬ。…永遠にだ。」


ぞくり、とガブリエルは震えた。

この男は、どこまでも自分を追うだろう。
その人間の欲の強さを、意志の固さを、ガブリエルはその身に感じた。

それは恐怖であり。



喜び、だった。



「ヴラディス…。」

ガブリエルの眼からまた、雫がこぼれた。



その雫をも、逃がすまいと。


ヴラディスラウスはガブリエルの頬につたう涙を舌で受け止めた。




それは永遠に祝福されぬ想いだった。



                             To be Continued…



夏も終わりやっと再開しました〜VHです!
とことんぬるーいですが一応描写はあるので裏においてみましたv
ここで二人はしばらく駆け落ち生活…かな?

さてさて、どこまで書けることやら。

こんな奴ですが、皆様が感想をくださり進めていける力をいただいてます。
本当にありがとうございます!
心より感謝します!


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