ねえ 君のために
オレのこれからを全部
あげるから
全部 くれないかな?
「剣菱さん…っ!ちょっ…ここじゃ…!」
「やだよ…やっと二人きりになれたんだ〜…てんごく君を補充…させて?」
「何言ってんすか、全く;」
夏も終わる頃、天国はようやく剣菱のいる病院に来る時間ができた。
凪も共に来ていたが、剣菱は天国の顔を見るなりこの場所…屋上へと天国を連れ出したのである。
そして急に、その多大な筋力を存分に生かして天国の身体を抱きしめて来たのである。
「だから、離してくださいって!」
「やだ〜てんごくくんってば、冷たいよ〜。」
「冷たいとかそういうんじゃないでしょうが!」
以前と変わらずゆっくりとしたテンポの反応を帰す剣菱。
その姿に、天国は少なからず安心していた。
あの試合の後、一度も会いにいけなかった。
吐血して、力なく膝を突いたこの人に、もう逢えないかもしれないという不安で。
もう、前のこの人に会えないような、そんな気がして。
だから、以前のようにゆっくりと反応して。
ただ甘えてくるこの人に会えて、ほっとしていた。
「てんごくくんさ〜また上達したよね。」
「え?何がですか?」
突然話を変えてきた剣菱に、天国は聞いた。
「何がって、野球だよ。
1ヶ月もたってないのにまた上達してたよね〜。」
「あ…見てくれたんすか、剣菱さん。」
「当然だよ〜てんごく君だもん。」
「はは…ありがとうございます。」
笑う天国に、苦笑したくなった。
テレビに映った天国の姿を、剣菱は目をそらすまいとして見ていた。
一試合ごとに確実に成長している彼に、驚いた。
そしてどこか見たことの無い悲愴な顔つきをしていたことに。
その視線が、たった一人に向けられたことに。
理由は、後で凪から聞いた。
天国が見ていたのは…実の兄だったこと。
それを知ると同時に、自分は天国の事を何も知らないことを思い知らされたのだ。
それは恐ろしいほどの焦燥感を、剣菱に感じさせた。
もうこれ以上こんな思いはしたくない。
だから…。
「ねえ、てんごく君…オレ、君を見てて決めたことがあるんだけど〜。」
「え?何ですか?」
「オレね、大学にいってトレーナーになるつもりなんだけど〜…。」
「あ…はい。」
「オレ、君の専属トレーナーになるよ。絶対にね。」
「え…?!」
剣菱はきっぱりと言った。
「いいよね?てんごく君ならオレのトレーニングと同じくらいは軽いだろうし。」
にっこり笑う剣菱に、天国はまだ困惑していた。
「え…でも、なんで、いきなり…。」
聞きたいなら、こたえてあげる。 そう思って。
剣菱は答えた。
「オレは 君のこと全部欲しいから。
今までも、これからも。」
「…は…。」
「いいよね?」
返事を待たずに、剣菱は天国の唇にキスした。
引いて逃げようとする頭を逃がさないように腕で後頭部から抑えて。
強引なキスを。
「……は…っ…。」
「逃がさないから。」
全部、ちょうだい。
「……全部、なんて…。」
「ああ、タダでとはいわないよ。
その代わりオレもオレのこれから、全部君にあげるからね。返品は不可だよ?」
「…反則、です。」
そう恨めしげに、でも顔を真っ赤にしていう君はあまりにも可愛くて。
「恋にルールは無用だよ〜?」
オレはもっといじわるになる。
「……わかりましたよ。」
########
後悔なんてさせないよ。
君はこれからずっとオレのもの。
だからオレは、これからずっと君のものだよ。
だから、もうあんな顔をしないで。
オレの傍で笑っていて。
end
前回の牛猿と同様屋上で告白、みたいな話になりました。
剣菱の専属トレーナー話はかなり前から妄想してましたが…。
剣菱が自分に課していたトレーニング内容を見ると、ついていけるのって
ホント天国くらいしかいないんでは;;
そして凪ちゃんは完全無視。
ホントにすみません!!
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