軌跡
「村中監督…ですか?オレ、十二支の猿野っす。」
オレがその会話をきーたのはたまたまだった。
でも、今オレが一番気になる相手、さるのがオレのオヤジと電話してるの聞いて。
ついつい、盗み聞いちまった。
「あの…雉子村九泉って選手……知ってます?
ええ…メジャー行ってたって…はい。…ありますか。
…いえ、そいつが大阪の豊臣ってとこの監督で…はい、華武をアッサリ。
……それも、あるんすけど。
見たいんです…。」
さるのの話してる内容で、今日会った大阪のガッコのおっかなそうなオヤジの話だってのは分かった。
けど、オレは不思議だって思った。
なんであのオヤジのプレイなんだろ。
オレらと試合すんのはあの息子っつうピッチャーのほうなのに。
そういえばあのあめりかって感じのピッチャーもすげえ野球選手の息子なんだよな。
オレと兄ちゃんみたいに、あいつもオヤジに野球たたっこまれたんだろうな。
あのおっちゃん怖そうだからすっげえ厳しかったんだろうな〜。
きっとオレのオヤジみたいに…。
オヤジが走ってきた道を、受け継いでいったんだろうな。
「………それは…はい。
理由…言わなきゃいけませんか?」
さるのの声でオレは意識を戻した。
そうだ、理由…オレも知りたい…。
何であのオヤジを知りたがるんだろ?
盗み聞きってよくねえけど、やっぱ気になるし。
そう思っていると、さるのが言った。
「…雉子村九泉は…オレの父親です。」
え?
「…いえ、オレは……。
父はアニキだけ連れてアメリカに…。
ええ、それ以来オレやお袋とはいっさい…はい。
いえ、それは……大丈夫です。
ただ、知りたいんです…現役の時のオヤジを…。」
オヤジ…?
アニキ…?
何、言ってるんだ?
あの大阪の監督と…ピッチャーって…。
さるのの…兄ちゃんと…オヤジだって…?
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オレはそのあと、ぼんやりしながら部屋に戻って布団にもぐりこんだ。
『オメー見た目は全然オヤジさんに似てねーな。
兄ちゃんの方は背ぇ高いけどオメーはこれから伸びてくんのかね。』
『お前らやっぱり偉大なる伝説の息子だったな…。』
あの時…さるのが小さく呟いた一言、オレはどうしても忘れられなかった。
『うらやましいな、お前。』
そういう事だったんだ。
オレはオヤジと兄ちゃんとずっと野球して来れたけど…あいつは。
オヤジからほっとかれて兄ちゃんとも離れて。
一人でやっと野球にたどりついて、なのに。
あいつらはさるのを…。
ひでぇ。
なのに…すげえんだな、さるの。
オヤジの軌跡を知らずに自分だけの軌跡を歩み続けてきたんだ。
ホントに、あいつはすげえんだ。
あいつらはオヤジなのにアニキなのに知らないんだ。
さるのが一人で手探りして来た道が光り輝いていること。
だれよりも強くて綺麗で、まっすぐ野球に向かってきたことを。
それをこれから思い知ることになるんだ。
その時には、あいつらのこと一緒に笑ってやろうぜ。
な? さるの…。
end
由太郎くん視点でした。
彼も天国も偉大な野球選手を父に持っていたのですが。
歩んできた場所はだいぶ違うなと思ってこんなのを書いてみました。
兄と父と一緒に野球を学んだ由太郎。
父に見捨てられ兄とは離れたった一人で野球を始めることから決めた天国。
家族はホント対称的ですね。
村中選手を見習えっつーの。全く。
天国の父さん実力のわりに器小さかったんじゃないの?
…というかダメになって器がしぼんだのか…。
まあダメオヤジには違いないですね。(酷)
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