傷
『牛尾主将。』
僕は君が大好きだった。
『オレの事好きですか?』
誰よりも愛していた。
『じゃあ。』
どんな事をしてでも手に入れたいとさえ思った。
『オレと。』
でも君には恋人がいた。僕の親友だった。
『寝てみませんか?』
なのに。
なぜ?
#######
「亡くなった猿野くんは、何か言っていた?」
「いいえ。」
何も、何も言わずに君は消えた。
聞きたいことは山のようにある。
なぜ何も言わなかったの?
「家族の話とかはしたことは?」
「いいえ…でも彼はいつも冗談のように話して…周りを明るくしてくれていました。
野球部にとってはムードメーカーで…。」
「明るい子だったんだ。」
「…そうだと思っていました…。」
そう。僕の知っている彼はいつも明るくて。
冗談を言って皆を盛り上げて。
笑っていた。
笑った顔を一番よく見ていた。
「君は猿野くんと同じ野球部の…主将だったね。
彼から相談とかは受けなかった?」
「いいえ。少なくとも…僕たちは彼が傷を受けていたことさえ気づかなかったです。」
不思議だね。僕は何度か彼を抱いたのに。
ああ、そういえば背中だけは見せなかったっけ。
君がいなくなってから知ったよ。
背中に一番ひどい傷があったこと。
それがどのようにして受けた傷かも…考えたくないほどにひどくて。
どうして気づかせてくれなかったんだい?
どうして何も言ってくれなかったんだい?
どうして一人で消えてしまったんだい?
僕は君を愛してたのに。
君が親友の恋人でも欲するほどに君を求めていたのに。
君は何も僕に求めてくれなかった。
ひと時の体温と快楽のほかは。
…そうだ、思いだした。
君が僕を誘ったのは決まって蛇神君が学校にも家にもいないとき。
君の手が蛇神君に届かない時だった。
そして、後から知った。
君が蛇神君や僕に抱かれた日は 君のお母さんが家にいなくて 君を殺した男と二人きりになる日だった。
僕も彼も、今は後悔だけ。
君を知らなかったこと。
君に気づかなかったこと。
そして君を護れなかったこと。
悔やまれてしかたがないよ。
ずっと大好きだったのに。
愛していたのに。
少しでも近くにいると思っていたのに。
今はもう どこにも いない。
隠されていた傷を 僕らに残したままで。
ああ、でも今も。
この傷と一緒に 君を愛してる。
痛みとともに 君を想っている。
ずっと。
end
あっはっはなんとなくやってしまいました「どうして…。」その後の牛尾君話!
…どことなくまだ前向きな終わり方かなあと思うのは私だけでしょうか?
今回もほぼリハビリ…ですね。駄文ですみません。相変わらず…。
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