言葉




 「御門ぼっちゃま、お迎えにあがりました。」

 「ああ、ありがとう。」

 十二支高校のある日の放課後。
 正門から少し離れた場所に、いつもどおり牛尾家の迎えの車が来ていた。

 車に同情していたのは執事のニルギリと運転手・それに数人のSP。
 
 非常識はなはだしい光景ではあったが、これは十二支高校にとっての日常だった。


 「あ、主将。お疲れ様っす!!」

 「やあ、猿野くん。今日もお疲れ様。」

 突然かけられた声は、牛尾御門の後輩であり…片想いの相手である猿野天国のものだった。
 
 すると、既に顔見知りとなっていたニルギリも天国に挨拶をした。

 「いつも御門様がお世話になっております。猿野様。御帰路お気をつけて。」
 
 「あ、ニルギリさん。こちらこそいつも世話になってます!
  また練習ん時はよろしくお願いしますね。」

 天国も、ニルギリの姿を確認すると笑って挨拶を交わした。


 「すまないね、猿野くん。用事がなければ家まで送るんだけれど…。」

 牛尾は残念そうに言った。
 そうしたいのは自分だけれど、と心の隅で思いながら。

 「何言ってるんすか!いいんすよ、そんなの。
  あ、でも次の機会があったらお願いしたいっすね〜。
  主将んちの車やっぱ乗り心地最高だし。」

 笑っていう天国に、牛尾は気持ちが高ぶるのを感じる。
 天国がほめたのは、自分の家の車だというのに重症だなと苦笑する。

 「それじゃ、俺失礼しますね!また明日よろしくお願いします!」
 
 「ああ、気をつけて帰るんだよ。
  また明日ね。」


  そう言って、天国は帰路に着いた。



 「また明日…か。」

 そう言える幸せを、牛尾はほんのりと感じていた。


 好きな人にまた明日会える幸せを。



 #########


 「また明日…か。」


 牛尾の座席から聞こえないところで、小さく声が響いた。
 
 「どうした?」
 「いや…なんでもない。」

 呟いたのは、牛尾家SPの一人だった。

 
 (猿野…様…か。)

 
 明日会える可能性はほとんどない、想い人。
 会っても、話などできもしない相手…。

 叶わない想いなのは最初から分かっていた。
 同性で、年下で…何よりも主人の想う相手。

 そんなことは最初から分かっていたのに。
 それでも、いつの間にか愛していた。

 
 また明日、と言える主人にかすかな憎悪を覚えるほどに。

 
 もし自分が、彼にまた明日と言えたなら。
 また明日会える相手なら。

 もし、彼が自分を視界に入れてくれるなら。



 だけど、自分は彼にとって視界の外で。


 ため息は尽きず。
 ふと悲しみを覚えて。

 それでも願わずにはいられない。
 いつかあなたに言えたなら。

 
 また明日、と。


                                   end


牛→猿と牛尾家SP→猿です。あははは激マイナーっすね…。
これはほんの少しだけ裏リク小説「愛しい闇」とリンクしてますね。
…早く続きを書かないと…。



戻る