※この話では都合上ミスフルの時期を2006年に設定しました;
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ゴー…ン
「今年もいよいよ終わりっちゃね〜。」
猪里の下宿先にて、猪里と天国はこたつで寛いでいた。
今は大晦日の夜。
新しい年を恋人と迎えたいというなんとも恋人同士に相応な願いを互いに持った結果だった。
天国は新鮮なみかんを剥きながら、ふと思い出した事を言った。
「そういえば来年て干支、亥だったっすね。大根先輩の年か〜。」
恋人になってもあだ名は変わらないことにやや複雑な思いを感じつつ。
猪里は答えた。
「そうっちゃね。おれ自身は午年やけどな。」
「そっすか〜でも先輩の年ですよね!」
天国は無邪気に微笑む。
言っていることは何の気も根拠もない言葉なのに、
天国が言えばそんな気がするから不思議だ。
「そういえば、前大阪かどっかで干支の動物使って引き継ぎ式やってたってニュースがありましたよ?
犬が『今年はケン(犬)討しましたが問題を残しました』って反省して
ちっせー猪が『来年はい(亥)の一番に問題を解決して猪突猛進して頑張ります』って答えるやつ。」
「ふーん、しゃれきかせとうな〜。」
「それ見て思ったんすよ、猪里先輩も今年も頑張るんだろうな〜…とか…。」
「…猿野…。」
猪里は天国がそんな些細なニュースからも自分を思い出してくれた事に驚いた。
そして。
「顔、真っ赤とよ。」
「〜〜〜〜…。」
言ってから照れる天国がとても愛しく思い。
天国の手を取った。
「せんぱ…。」
突然の行動に驚いた天国は、顔をあげる。
そこに、とろけたような優しい表情の猪里の顔があった。
「頑張ったのは、猿野っちゃ。この手見たら分かると。」
「…。」
猪里が取った天国の手はマメが潰れ皮膚が固くなっていた。毎日バットを振り球を追って埼玉県選抜チームを優勝に導いた手だ。
猪里はその掌を自らの頬に当てる。
「猪里せんぱ…オレの手…ゴツゴツで痛…。」
「んなこと分かっとうし、何も痛いことなかよ。
猿野の手や。」
そう言って、頬を何度も擦り寄せる。
天国は赤らんだ顔を、泣きそうに歪ませた。
嬉しくて。
「猿野、次のオレの年も一緒やからな?」
「…はい。」
百八つ目の鐘の音は唇の温もりに掻き消されていた。
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「今年もいよいよ終わりですね〜。猛臣さん。」
「来年はまたおれの年やな。」
「次もいてくださいよ?」
「次はおっさんか。」
「お互いにね。」
「そん次も?」
「その次も。」
今夜も鐘は鳴り響き。
新たな年が明ける。
彼が側にいる年が。
END
時期を一ヶ月はずしましたが、今年はじめに石黒あかね様にお送りさせてもらいました。
猪猿小説です。考えてみればいのりんは初でした…!!
ちなみに干支引継ぎイベントは実際に大阪で行われたものをそのまま出してます。
かなり可愛いかったんで使わせてもらいました;
そんなわけで、今年も1ヶ月すぎようやく更新再開です。
遅くなりましたが今年もよろしく!
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