マジ寝



「ふあああ…。」

ここは悪名高い鈴蘭高校の中庭。
この学校の2年であり、校内一の有名人、そして最大派閥「花組」のリーダーである月島花(はな)。

今日は珍しく一人で校内をぶらついていた。

周りには昼寝を決め込む後輩やら同級生やら先輩やらがごろごろしていた。
何せ今は昼休み。不良だろうが優等生だろうが眠気が必ずおとずれる時間。

しかもこの学校にいるのはほとんどが不良と名づけられる奴らばかり。
授業が始まる時間だろうが、気にしない人間がほとんどだ。


結果として熟睡する男子高校生が群れを成しているわけだが。


花は、というと彼はこの学校では珍しいとされる真面目に授業を受けるタイプの学生で。
眠気を感じながらも五限目の近い時間帯、なんとかその欲求に耐えていた。



「眠い…けど健全な男子高校生たるもの授業は大事だよな、うん。」
(なんせ授業料がもったいねえし)

両親亡き後必死で自分を高校までやってくれる祖母の事を思うとどうもサボる気にはなれず。
花はそろそろ教室に戻るかと踵を返そうとする。



その時。


ドゴッ


「んがっ!」


「えっ?!」


方向転換した踵がクリティカルヒット。


そこに居た誰かのわき腹を蹴ってしまったようだ。


「あ〜、悪い悪い…。」


「悪いですまんがーーーーっ!!!」


「わ!!」


突然蹴り飛ばした男が起き上がった。
その人物を見て花は驚く。



「グ、グリやん??!!」


そう、それは花がこの街に来て唯一負けた人物であり。
鈴蘭高校最強の男、3年の花木九里虎(グリコ)だった。



(やべっ!)

この男のキレた時の見境のなさは、花もよく分かっている。
しかも堪忍袋の緒が死ぬほど短いことも。


今まで何度も校内で暴れだした彼を力づくで止めてきたのは、他ならぬ花なのだ。




「どりゃあ!!」


見境のなくなった九里虎の必殺の蹴りが飛んだ。



(!)


ガキィ!


「!?」



花は必死で蹴りを受け止めた。
それに驚いた九里虎は、すぐ正気に戻る。



「なんね、花か。」

相手が(実はかなりお気に入りの)後輩であることに気づくと、九里虎はおとなしく足を引いた。
やっと正気に戻ったか、と花も安心する。

尤も花でなければ、九里虎は正気に戻っても相手をしばいていただろうが。


「き…きぃた〜〜〜、グリやんの蹴り久々っスよ…。」

「花、こげなとこでなにしよーばい。」

「それはこっちの台詞っスよ!
 なんでこんなとこで寝てるんですか。」


「そら昨日ちーとばかしはりきったばってん、寝よっとったがい。」


その答えに、九里虎が8人もの女性とつきあっているという話を思い出し。
花はデート疲れかと納得する。

この学校に来た頃はそういった話に疎い花であったが、最近になれば周りからいろいろと刺激的な情報をイヤでもくれるのだから。
(同級生のAVキングを代表して他多数)


「あー、いいですねえ羨ましい。」

花自身女の子が嫌いなわけでは決して無いので、素直にそういった。



すると、九里虎は突然声を低くする。

「…ニシでもそげん思うんかい。」

「へ?そりゃまあ。
 女の子っていいな〜とかはオレも思いますよ。」




「…そうかい。」



「え?!」




ガシッ



「わ!!」



どさり。



急に九里虎に腕をつかまれた花は、その場に座らされると。
そのひざの上に九里虎のボリュームのある髪…と頭が降りてきた。



「……何してるんですかグリやん?」


「やかましか、わしゃ寝ると。動いたらただじゃおかんばい。」


「って、寝るのは勝手ですけど何ですかこの体制は…。」


横暴な言い分に呆れながらこの体制へ文句をもらす。
早い話が膝枕をさせられていることに対して、である。


「こんなの、それこそ女の子にやってもらってくださいよ…。彼女8人もいるんでしょ?」



「……。」



「って、マジ寝っスか?!」



既に九里虎から返答は無い。



キーンコーンカーンコーン…



そして無常にも始業のチャイムはなった。


「あああ〜〜〜一時間分が…。ばーちゃんごめんな…。」



その時、嘆く花の後頭部に大きな手のひらがあたり。


「へ。」



驚くまもなくぐいっと下に向かされた。



花の視界に九里虎のサングラスが至近距離でうつる。




「やかましか。」




「ん…?!」


九里虎が何か言った様な気がした、次の瞬間。



花は…キスされていた。



勿論相手は、最強の先輩、である。




「〜〜〜〜!!!???」




######


「あ〜〜〜よっく寝たバイ。」


「……………………………………。」


結局九里虎が目を覚ましたのは6限目も終わった頃だった。


九里虎は身体を起こすと
座ったまま恨めしげににらんでくる後輩に気づく。


「ん〜?花、どげんしたと。」


「…………シビれて…。」



「あ。」


「足がしびれて立てねーんだよ!!
 しかも寝ぼけて…。」


そこまで言ってさあ、と花は顔を青くする。


あまり気色の良くないことを思い出したようだ。



「はー、そりゃ悪かったね。」


「ほんとーにそう思ってますか?グリやん。」


「おもっとるとよ?」


そういうと、にまり、と九里虎は笑い。



「わ?」


ぐい、と花の身体を抱き上げた。



「ちょ、そこまでしてくれなくても…。」

「遠慮はいらんとよ、他でもない花やちき。こんまま教室まで送っちゃるばい。」



「は…。」


さあああああ、と花はまた顔を青くした。


つまりこんなお姫様状態で教室まで行くと。



「…そ、それはちょっと…。」


「なんね、わがままやな。」



「……せめておんぶにしてください。」


花は諦めて、言った。


「よかよ。」


九里虎は楽しそうに笑って言った。


チャンスは逃すべからず。
九里虎の恋愛の兵法は、見事に成功したようだ。





おまけ


「おーい。寅、花の奴どこ行ったんだ?」

「あ、迫っちゃん。それがさあ、午後からの授業出てなくって。」

「何だ、サボりか?珍しいな。」

「さ、ささささ迫田さ〜〜ん、寅さん!!」

「何だ、プリン。そんな慌てて。」

「は、花さんが九里虎さんに〜〜〜!!」

「何?!」

「え?!花ちゃんグリやんとやらかしたの??!!」

「ち、違いますよ!!でも運ばれてました!!おんぶされて!!
 しかもなんか花さんその…顔を赤らめて…。」

「なにいいいいい????!!!」



やっぱり見事に変な噂がとびかったのであった。


勿論、九里虎の思惑通り、である。



                                          end



ついにはじめちゃいました「WORST」です!
ジャンルとしても完璧にマイナーなのに、CPはほぼオンラインで皆無だった花受。
ちなみに今回は2年の花ちゃんです。
グリコさんの方言は適当です。この人はホントに方言バリバリなんで難しすぎる(笑)

1年の時の話もそのうち…。
需要は無いでしょうから、本気で自己満足。
でも書いて見ます。欲望の赴くままに(笑)



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