迷路


目が覚めたあの日から、ずっと迷路の中を彷徨っているようだ。
前も後ろも、何も分からない。
何処かに行けば何処かにつけるのか。
何処かに戻れば何処かに帰れるのか。

何一つ分からなくて。


誰か助けてくれ。
叫びたかった。

周りの人間の一人はそれが神の試練だと言う。
オレはそれを素直に飲み込むしかなかった。

神の試練であるかどうかは分からなくとも、神の存在は最初から信じていたから。

友人といえるべき人間は、それは変わっている、と言った。
オレのような反抗心の旺盛な人間は、神を信じていないことが多いと、そう言っていた。

今も神の存在を疑ったことなどない。
もしかするとそれが、オレの正体を知るきっかけになるかもしれない。


そう思った。

思いたかった。


だけど、迷路の出口はいっこうに見えなくて。


7年、たった。




その時。


「やあ、ガブリエル。」


暗いくらい声がオレを導く。

甘美な闇そのもののような声。


…何故?

オレは、誰なのだろう。


教えてくれ。


薬指のない冷たい右手は、オレをどこへ導くのだろう。

ふと、たった一つ身に着けていた指輪が光ったように思った。



迷路が少しだけ動いたような気がした。



『ガブリエル』
声音が脳髄に響かせる。


甘美な闇は、夢の中でオレに口付けた。


まだオレは、迷路の中にいる。


迷路の外は まだ見えない。



                       
end


ヴァン・ヘルシングの心情…です。
いちお伯ガブ前提な伯ヘルというところで。

昔「蒼の封印」(by篠原千恵先生)というコミックで「自分が分からないのは闇の中に一人立っているように怖い」という感じの言葉があって、それがすごく印象的でした。

多分、ヘルシングも物凄く怖いんだと思います。
それでドラキュラが昔の知り合いじゃさぞ辛かっただろうなあ(笑)


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