もう一度
『入ったァ〜〜〜!! 時計の文字盤に突き刺さった〜!!
サヨナラホームラン!!』
「やったあ!!」
「ほう…。」
遊神流道場の居間。
そこでこの家の名物親子は、高校野球に見入っていた。
そしてこの道場のある埼玉県の選抜チームが優勝したのだ。
その瞬間、娘の楓は大喜びした。
決勝打を打ったのは彼女の同級生、そして…少しだけの時間、彼氏だった少年。
紆余曲折を経て(?)短い付き合いに破局をもたらしてしまったわけだが。
楓にとって、彼…猿野天国が気になる存在なのは変わっていなかった。
そしてその天国が誰も打てなかった最高のピッチャーから特大のホームランを奪ったのだ。
それが嬉しくないはずは無かった。
「やったね、やったねパパ!猿野くんやっぱりすごいよ!!」
「ふうむ…一度は見損ないもしたが…一方ならぬ男だったようだな、あの坊主は。」
「でしょ?でしょ?だってボクが好きになった…。」
「…楓。」
「あ…。」
楓は、自分の言葉に頬を染める。
まだ未練が残っていることを、この父に知られてしまった。
一度は父の前で決定的に別れたのに、今も同じ男を思っているなど…。
この父が許すわけはないのに。
「あの、パパ…。」
だが、父は一息つくと。
低い声で、話を始めた。
「楓、実はお前には黙っていたが…。」
#####
(実は大会の準々決勝がはじまる前日に、猿野がここに来てのう。)
ドガッ
(もし大会で優勝したら、お前に自由に男と交際するのを許してほしいと言いよった。)
ガッ
(わしはそんなことは優勝してから考えてやると答えたがな。)
ガキッ
(埼玉の野球は華武とかいう名門が群を抜いているというのを聞いていたし、
お前の学校がそれなりに強くとも、そこにはかなうまいと思っていたからな。)
ガッ
(案の定、準決勝で十二支は負けた。その時点で約束は反故にするつもりだったが…。)
バキィ!!
(…驚いたな、あやつはこの大会で最高の活躍ぶりをみせおった。)
(県対抗総力戦で、とは約束せんかったが、これでは認めんわけにはいかん。)
「ハア…。」
楓は蹴りあげたサンドバックに身を傾けた。
(楓。今後はお前が想う男と自由に交際するがいい。
…もっとも、もう相手は決まっているようだがのう。)
「猿野くん…。」
どうして?
どうして…好きでもないボクにもそんなに優しいんだよ…。
そんなコトされたら…嫌いになんかなれないじゃない…。
今ボクはもう一度君に恋した。
今度は何て言われても 何て拒まれても 君が好きだから。
「…今度はそう簡単に諦めてあげないから…。」
もう一度決意させたのは 君。
end
またもリハビリ。久しぶりに楓→猿です。
この子は女性キャラでは凪ちゃんともみじちゃんと鶫ねーさんの次くらいに好きですね。
猿野ママは別格ですが。
もし楓ちゃんがお父さんと天国の試合を見ていたら、みたいな感じで。
はっきり捏造ですからいろいろ気にしないで下さいませ…。
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