星空のもとで




ミセス・ボスとドローヴァーと別れて、おじいちゃんと旅に出た。

あれからいくつか季節を越して、僕の背も伸びた。

時々、歌をミセス・ボスたちに送る。
きっと届いてるよね…。

そんなある日の事だった。


星空の下おじいちゃんと歌を歌っていると、知らない気配を感じた。

「おじいちゃん…誰か来たよ。」

僕がそう言うと、おじいちゃんはとうに気づいていたようで、
すぐに答えてくれた。

「怪しい気配ではないな。ナラ、様子を見に行っておいで。」

「うん。」

 

僕は岩山を降りて、気配がした方を見た。
気配は人のものだけ。

おかしいな。まだ乾季のこの時期に、人が一人で来るなんて難しいのに。
馬の気配もないなんて…。

地上に立つと、少し離れた所に人影が見えた。
大きいし、がっしりしてる。

彼と同じくらいだ。

「…誰?」

「……子供か。」


その声に聞き覚えがあったので驚いた。
僕を大事にしてくれた白い人。


「ドローヴァー?!」

大急ぎで駆け寄る。
するとそこには、まぎれもないドローヴァーの顔があった。


「…?何だ?」

暗くて分からないのか、ドローヴァーは僕だと気づいていないみたいだ。


「ドローヴァー、僕だよ!
 どうしたの?こんなところで!
 ミセス・ボスは?また喧嘩しちゃったの?!」


ドローヴァーは不思議な格好だった。
黒づくめで、長い髪。帽子もかぶっている。

そして興奮する僕の肩をとると、言った。


「落ち着くんだ。
 俺は「ドローヴァー」じゃない。」

「え?でも…。」

意外なこと言われて僕は彼を見上げた。
どう見てもドローヴァーにそっくりだ。

でも…確かに、少し違う。

ドローヴァーより少し若い…かな。


人違いに気付いて、僕は少しその人から離れた。
それを見ると、その人は少しさびしげに笑った。


その時気がついた。
その人は…人とどこか違う気配を持っていた。
ここまで近づいて、やっと分かる。


この人のにおいは大地や空と同じにおい。
僕やおじいちゃんのように、大地や空に近づいて溶け込んだにおいじゃない。

最初から「そうだった」んだ。


驚いていると、その人は言った。


「お前の知る人は俺に似ているんだな。」
「う…うん。」

「そうか、羨ましいな。」


「え?」


「もう俺を知る人はいないから。」

小さな声で、その人は言った。
消え入りそうだった。

こんなに大きな人なのに、こんなに空と大地に近い人なのに。


「…泣かないで。」
「……泣いてはいないよ。」
「ううん、気持ちが泣いてるよ。」


「…そうかもしれない。」


また笑った。
笑顔が、初めて会った時のドローヴァーにやっぱり似てる。


そう思っていると、その人はふと気付いて言った。

「ああ、邪魔をしたな。
 大事な旅の最中なんだろう?」

「え?どうしてわかるの?」


「そうだな…なんとなく、だ。」
「なんとなく…?」
「ああ。」


答えにはなっていなかったけど、この人が言えばなんだか納得できた。
この人もきっと旅をしてる。

きっと…途方もない長い旅。


なんとなく、そんな気がした。

「俺も行くよ。
 元気でな。」

「う…うん。あなたも元気を出してね。」

その人は僕の頭を優しく撫でると、ゆっくりと歩き出した。

離れていくその人に、僕はもうひとつ言った。


「僕はあなたを知ったよ。

 あなたを知っている人ができたよ。」


そう言うと、その人は振り返った。


そして笑った。



「ありがとう。」





####


それからそのひとに逢うことはなかったけれど。


そのひとはまだどこかにいると、なんとなく、わかった。


そしてそのひとが幸福であることを。


ずっと祈っていた。




                                    end


オーストラリアが面白かったので、ついコラボレーションしてしまいました。
旅の途中にナラと出会ったガブリエル(ヘルシング)です。

というかあの旅の途中に部外者と話すことが許されているのかどうか…;;まあその辺は気にしないでください。

これに出てるガブリエルはどういう数百年を送ったのかな。
二つの世界戦争を乗り越えて、たくさん傷ついた後でしょうから…。

でもいつか誰かの生まれ変わりに会うんじゃないかな、そう思ってます。
いちおナラも息子設定だったし。(おい)


ではでは、読んでくださった方ありがとうございました!!



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