彼方へ
24
「さて、あの者はそろそろ行動を起こす頃か?」
「はい。最後の儀を与えておきました…もうまもなくかと。」
「…そうか。これで完成するというわけだ…。」
「はい。われわれもこの日を待ちわびておりました。」
「……クククク……懐かしい顔にも見えよう。
楽しみだ…フフフ…ハハハハハハハハハハ…………………!」
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バァン
「ヴ…ヴラディスラウス様…!!」
「邪魔をするな!!」
天使を抱いてから数日後。
城に戻ったヴラディスラウスは早朝の城の中、ただ一人の姿を捜し求めていた。
「ガブリエル!!何処だガブリエル!!」
今まで決して広いと思ったことのない城が、広く感じるほどに。
ガブリエルの不在が、恐怖を覚える虚ろを心に落としていく。
「ガブリエル!!!」
一際大きく、声が響いた後。
別の声が、ヴラディスラウスの背後から響いた。
「おやめなさい、兄上。朝からみっともない…。」
「ラドゥラス!!」
この時でなければ、ヴラディスラウスはラドゥラスを視界にも入れなかっただろう。
だが、ガブリエルの所在を知るのに、この弟は確かな情報を持っている可能性がある。
ヴラディスラウスは、ラドゥラスの襟に掴み掛かろうとした。
だが。
「ガブリエル様でしたら、昨日公爵家の方から迎えが来まして。
昨晩アンナ・ベルと共に城を出られたところですよ。」
「な…。」
ヴラディスラウスは驚愕した。
なぜ。
このときにガブリエルの実家が顔を出すのか。
勿論今までだってその可能性はあった。
もしヴラディスラウスが正気であれば、この疑問が出ていただろう。
だがヴラディスラウスの感情は訴えていたのだ。
ガブリエルは去った。
アンナ・ベルと共に。
その事実が、彼の全てを喩えようのない怒りと、狂気に巻き込んでいった。
「ガブリエル……。」
次第に正気の色をなくしていくヴラディスラウスの瞳。
目の前のラドゥラスはその重要性に気づくことはなかった。
もし気づいていたのなら、少なくとも命はもう少し長く続いていたのかもしれない。
「どうやら兄上は、思いを絶たれたご様子ですね。
ああ、無理もない。
いくらお二人が仲良くされていたとはいえ、あのような激しい愛し方では…。」
その言葉に、ヴラディスラウスはわずかに反応した。
ラドゥラスは今楽しげにあの夜の出来事を口にした。
彼は、あの夜、兄がガブリエルを抱いたのを知っていた。
客間のテラスから二人の姿を眺めていたのだ。
自分を侮辱し、蔑んだガブリエルが兄に汚され落ちていく姿を。
自らを見下げ続けていた兄が狂気を含み神に背いた姿を。
二人があまりにも扇情的な光景を繰り広げながら、穢れていく姿を見ていたのだ。
それはラドゥラスの心を昂揚させ、邪な慾を満たしていった。
そして今、それを口に出し兄を蔑むことが、ラドゥラスの更なる昂揚を生んでいたのだ。
だから彼には真実は見えていなかった。
それは、彼の母も同じだった。
「朝から騒がしい…全く、常識をわきまえてはどうなの?ヴラディスラウス。」
母、エリディアだった。
彼女は公爵家の親族となる夢に眩んでいた。
美しい息子と共に、公爵家の一員となり眩いばかりの宝石やドレスに囲まれて。
周囲の視線を一身に浴び、美しい光を身にまとう。
その中に、勿論ヴラディスラウスはいなかった。
彼女にとって息子はラドゥラスのみで、最初からヴラディスラウスは存在しなかった。
理由は彼女以外には存在しないも同じこと。
ただ、ヴラディスラウスの漆黒の髪がアンナ・ベルの母親と同じだったから。
そしてラドゥラスは自分と同じ金に輝く髪を持っていたから。
それはこれからの出来事に何の意味も成さない事実だったが。
「いいこと、我がヴァレリアス家はこれから公爵家とつながりを持つことになるのですよ?
我が娘アンナ・ベルとガブリエル様の結婚がほぼ決まったも同然なのだから。」
母の言葉に、聞き捨てならない部分を見出し、ヴラディスラウスは声を絞り出す。
「…結婚が決まった…ですって?」
うつむいたままでヴラディスラウスの表情はエリディアには見えなかった。
見えている位置にあったとしても、彼女は長男の顔を見ることはなかっただろう。
狂気の色が次第に濃くなっていく顔を。
「ええ。アンナ・ベルはガブリエル様が連れて行きたいとおっしゃったのよ。
これはもう婚約したも同然ととらえるべきではないのかしら?」
何を当然のことを、とエリディアはさげすんだような笑い声をあげる。
だが、その蔑みはもうヴラディスラウスには関係のないことだった。
(ガブリエル…アナ…。)
渡しはしない
離さない
たとえ地の果てまで逃げても…。
ヴラディスラウスはきびすを返すと、無言でその場を去った。
「兄上、どちらへ行かれるのですか。」
「ヴラディスラウス?」
二人は、一度兄に、息子に声をかけた。
だが、それ以上は彼に声をかける気にはなれなかった。
弟は、後からでも話せるし、一度部屋に戻ってからでもいいと思ったから。
母は、自分の話に反応しない相手に長くかかわるのが面倒になっていたから。
それが運命だったのかもしれない。
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ラドゥラスとエリディアの二人から離れたヴラディスラウスは、自室に戻ると。
悪魔の書を置いた地下室へとたどりついた。
そして、ここで最後にみた書物を手に取ると。
手に入れた麻袋を開けた。
「どこに行こうとも…逃がしはしない……お前は私のものだ…。」
美しきガブリエル。
いとしい、ひと。
To be Continued…
あああ父親登場ならず!!
今回は母子の意図(つーほどでもないですけど)とヴラディス氏の感情が
全く交わっていないという表現を心がけてみました。
分かりづらいですね…。
話は進んでるようで進んでませんね…。(T△T;)
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