彼方へ
26
教えて欲しい どうすればよかったのか
教えて欲しい 何がいけなかったのか
誰か 教えて欲しい
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年も押し迫った12月の終わり。
ヴァレリアス城の主、ヴァレリアス伯爵は領内の視察の旅を終え、城に戻った。
だが。
「何だ…?この静寂は…。」
城は静まり返っていた。
門のすぐ傍に来ても誰も迎えに出ない。
「誰か!誰かあるか!」
少し声を上げた。
ここまで静まり返っているのは尋常ではない。
人の気配がないだけではない。
城内で数多く飼っているはずの馬や、猟犬…家畜の動く物音もない。
そして、当然のごとく家族や…あの客人の気配もなかった。
領内には何の異常もなかった。
だが、もし賊や…異教徒が攻め入っていたのなら。
そう思うと、ヴァレリアス伯の背筋が冷えた。
たとえ冷え切った家庭だとしても。
ヴァレリアス伯にとっては心より愛する家族…。
自分のいないうちに危険な目にあっているかもしれないとなれば。
「エリディア!ラドゥラス!!アナ!!…ヴラディスラウス!!
いないのか!?」
ヴァレリアス伯は常にないほどの声を出した。
その声に、こたえたのは。
「おや、父上ではありませんか。」
「!!」
声が聞こえた方向を見上げると。
テラスに長男・ヴラディスラウスがいた。
彼は見たことのない狂気に満ちた瞳で、父を見下ろしていた。
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「一体…どういうことだ、ヴラディスラウス!!」
ヴラディスラウスによって開かれた門の先。
そこに生きて動くものは存在していなかった。
執事も使用人もメイドたちも。
存在が最初からなかったように。
ヴラディスラウスは何も言わず、城の中に入っていく。
「ヴラディスラウス…!!」
その様子に、ヴァレリアス伯は言い知れぬ恐怖に襲われた。
だが真相を知らないままでいるわけにもいかない。
城主は、誰もいない城の中ヴラディスラウスの後を追った。
たどり着いたのは、
城で最も広いテラスだった。
ヴラディスラウスはテラスの中央に歩を進めると、ゆっくりと振り返り。
父に笑いかけた。
暗く歪んだ微笑を。
その笑顔とともに、ヴァレリアス伯の視界にあるものが飛び込んできた。
「!!!」
そこに、父は妻と息子の姿を見出したのだ。
氷に閉ざされた姿の、家族を。
「これは…。」
ヴァレリアス伯には何が起こっているのかわからなかった。
何故、二人がこのような姿に?
もう死んでいるのか?
誰かこんなことを?
ヴラディスラウスか?ヴラディスラスがやったのか?
二人との仲が悪かったヴラディスラウスが?
では、何故ここには他に誰もいない?
使用人たちは。
アンナ・ベルは。
ガブリエルは。
「ご安心を、父上。別に殺したわけじゃありませんよ。」
ヴラディスラウスは、父の思いを汲み取ったかのように答えた。
そしてゆっくりとエリディアとラドゥラスの二人が眠る氷の塊の傍にいった。
「あまりにも耳障りなことばかりお二人が口にするものでね。
少し眠ってもらったのですよ。
少しばかり長い眠りですが…まあ心配は要りません。
死んではいませんからね。」
それだけ言うと、ヴラディスラウスは二人を視界から外す。
そして鮮やかに笑った。
「安心されましたか?父上。」
「…ヴラディスラウス、一体どういうことだ!!
何を…何をしたのだ!!」
「何を…と言われますと?」
「この状況だ!何故使用人たちの姿も見えないのだ!!
それに…アンナ・ベルとガブリエル様は…!!?」
二人の名前が出た一瞬、ヴラディスラウスは眉をしかめる。
そして激昂する父に、ゆっくりとした口調で答えた。
周りにある出来事など皆無であるかのように。
「これ以上は…知らなくてもいいのですよ父上。
貴方はね…。」
そう言うと、ヴラディスラウスは背を向けた。
だが、まだ何も聞き出せていないヴァレリアス伯は息子の背中を追った。
「ヴラディスラウス!まだ聞きたいことは…!!」
その瞬間。
ヴァレリアス伯は背後から何者かに羽交い絞めにされた。
「な?!」
顔を見ると、見知った使用人の姿。
「無事だったのか、クロムウェル!
その手を離してくれ!」
ヴァレリアス伯は、安堵するとともに希望を伝える。
だが、いつもなら忠実であったはずの使用人は何一つ答えない。
「クロムウェル?!何をしている。
早くその手を…。」
「連れて行け。クロムウェル。」
「はい。ご主人様。」
「な…!?」
彼は従った。ヴラディスラウスの声に。
ヴラディスラウスの声にのみ、したがった。
「どういうことだ!ヴラディスラウス!!
お前は一体何をしたのだ!!
ヴラディスラウス!!ヴラディスラウス!!」
ヴァレリアス伯は必死に息子の名を呼び続けた。
地下の一室に入れられるまで、ずっと。
何が起こったのかも分からないままで。
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「もうすぐ…もうすぐだ。ガブリエル。もうすぐ…。」
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「あと少し…だ。楽しみだ…。
なあ…我が弟よ…そして…ガブリエル…。」
##
「月が満ちていく…。」
時は近づいていた。
To be Continued…。
やっと帰ってきた父上ですが、訳も分からずそのまま監禁です。
ようやく「その時」が近づいてきましたね。(NHKかい)
もう少し、です。(笑)
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