彼方へ


第三部



風が温かくなっている、とアンナ・ベルは思った。
懐かしい故郷を、知らない間に旅立ったのは冬の頃。
こうやって一人帰ることを望んではいなかったが。

叶うのなら父と。
そして兄と、この場所に帰りたかった。
それでも、こうやって帰る日に喜びはあった。

「もうすぐです、アンナ様。
 お身体に障りはありませんか?」
「ええ、大丈夫。ありがとう。」

臨月を近く控えたアンナ・ベルの身体に長旅は少なからぬ負担を与えていたが、
バチカンの眼を欺くためにはしかたがないことだった。

なぜバチカンを欺く必要があるのか。
アンナ・ベルはあえて聞く事をしなかった。
いずれ説明するという、彼らの言葉を信じたのだ。

彼らは、あの日に逢った騎士の既知と言った。
あの日の事を、アンナ・ベルは誰にも告げていない。
それだけで、彼らを信じるには十分だった。

妻である彼女、エリザはアンナ・ベルの隣りに座り、息子であろう少年とともに
旅の間常にアンナ・ベルの身体を気遣ってくれた。

夫のシェインは馬車を長時間駆り、追手の有無を気にしながらの旅を続けた。
そして、それも終わりに近づいた。


「見えました、アンナ様。
 ヴァレリアス城です!」
「あ…!」


アンナ・ベルの眼に故郷の城が飛び込んできた。


その日、ヴァレリアスの血は再びトランシルバニアの地に立った。



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「捕らわれた?
 ……大天使ガブリエルを…?」

「はい。」

ガブリエルが捕囚されたことを聞くと、ウリエルの表情にも変化が起きた。
だが、心配というよりも疑惑のまなざしに近いようだった。


「何に捕らわれた?」

「魔に魅せられた人間にです。」

「人間…だと?」

ゾフィエルの言葉はウリエルにとってにわかには信じかねるものだった。
少なくとも、ガブリエルはミカエルに次ぐ力を持つ者だ。
それが、魔に魅せられたとはいえ、人間に…?

魔。

「…少し前に上が騒々しかったが…それに関係はあるのか。」

ゾフィエルはその問いに。
問いの形をした確認に、一瞬身体を固まらせた。


だが答えは決まっていた。

「私は返答できません。」


「ふん。」


ウリエルはつまらなさげに踵を返した。


「ウリエル様…。」

ウリエルの気が悪くなったか、と焦燥を感じた。
だが、ウリエルは背を向けたまま言った。


「用件を聞こう。
 何が起こっているか、お前に聞いても答えは得られぬようだしな。

 任を果たし、早急に去れ。」

「…御意。」

冷やかな声だが、求めていた返答をゾフィエルは得た。


「果ての牢城の開封の法をお教えください。」



「……ほう。」


ウリエルの唇が小さく緩んだ。




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「失礼いたします。」


「どうした?」


「ご報告を。御主がお呼びでございます。」


「…分かった。」


ミカエルは手を止めると、執務の机から立ち上がった。

御主の言葉は予想がついていた。




「……時期が近い…。」



ミカエルはふと、地上へと視線を落とした。

そして、遠く囚われの身となった友を思う。


「……ガブリエル…。」


早く戻るがいい。


…いや。



今はまだ…。




                         To be Continued…



うーん、ちょっといろいろ新しく詰め込みたくなってきました。
話の概要はだいたい決まってるんですが…。

さて、昨日は…ヒューさん司会のアカデミー賞の授賞式ー!!
これを打ってる今はまだ見てませんが、これから舐めるように見ます!!
日本映画「おくりびと」「つみきのいえ」もめでたく受賞したし、
亡くなったヒース・レジャーも受賞したとのことで…よかったです。
ジョーカーすごかったもん。

てなわけでまた早く書かないとな。
ヒューさんも40歳。惚れた時は33か。うんうん、年をとったなあ。


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