例えばこんなMASQUARADE
ドラキュラ伯爵の花嫁の一人、アリーラにまんまと攫われたアナ・ヴァレリアスは。
気がつけば美しい真っ赤なドレスに身をまとい、宿敵とダンスを踊っていた。
しかも冷たい口付けとともに…。
「!!」
驚いたアナだったが、突然ポジションを変えられ叫び声を封じられる。
「私に踊らされて楽しいかね?」
楽しげなドラキュラの表情をアナはにらみつける。
「取引はさせないわ。」
気丈にふるまうアナの様子に、ドラキュラはほくそえむ。
「取引をする気はない。」
そう答えるドラキュラの次の言葉をアナは待った。
「…ところでドレスはお気に召したかな?
真っ赤な薔薇の色だ…お前によく映えている。」
突然話題を変えられたアナは、少し驚く。
しかしこうやって人をはぐらかすような物言いは、この相手の常套手段だ。
だが、だからといってのんきに仇敵とダンスを踊る趣味をアナは持ち合わせていない。
「関係ないわ。私が聞きたいのは…。」
その言葉を、ドラキュラはさえぎった。
「ヴァン・ヘルシング……ガブリエルはどんな衣装を纏ってくるのだろうな。」
恍惚とした表情と考えてもいなかった台詞で。
「は?」
############
「ヴァン・ヘルシング、あそこだ。」
その頃、話題の主ヴァン・ヘルシングは相棒カールとともにダンスしている二人を見つけた。
ダンスを踊っているので当然だが、かなり接近している。
あれではアナをドラキュラのもとから引き離して助け出すのは難しい。
今もドラキュラはアナに耳元でなにやらささやいている。
どんな話をしているのかは想像する余裕もなかった。
だが、その方がよかったようだ。
想像もできないような内容だったのだから。
#########
ヴァン・ヘルシングがさっさと思いついた作戦の実行に思考をめぐらし始めたとき。
ダンスを続ける二人はこんな会話をしていた。
「お前はどう思うね?
ガブリエルの美しい黒髪には、黒を基調にした衣装もよいが、
ゴールドやシルバーもガブリエルなら着こなせるだろうな。
ああ、とても楽しみだよ…!」
「あ、あのね…。」
アナは混乱しきっていた。
当然ドラキュラの術にかかってというわけではない。(まあある意味かかってはいるが。)
「だがグリーンも捨てがたい。深い緑はガブリエルの瞳によく似合う。
何にせよ淡い色よりは深い色合いがよいな。」
アナの混乱など全く気にしないでドラキュラはガブリエル…どうやらヴァン・ヘルシングのことらしいが…の衣装について延々と論じていた。
アナはどうでもよくなってきたのか、ふと漏らした。
「白でも意外と似合うんじゃないの…。」
「!!!」
その言葉に、ドラキュラ伯爵は異常に反応した。
目を見開き、アナをにらみつけた。
「な、何よ?!」
アナも気丈に答える。
すると。
「分かっているじゃないかアナ!!」
ドラキュラは突然目をきらめかせた。
「そのとおりだ!ガブリエルには白が似合う!!
ああ、私としたことが考えてもいなかった!
そうだ白だ!よし!今度は白地に金の刺繍を施した衣装をガブリエルに用意しよう!!」
ドラキュラ伯爵は興奮しきってアナの身体を傾ける姿勢を再びとった。
そして大きな口をあけて興奮してヴァン・ヘルシングに似合う衣装を語り始めようとした…その時。
「ぐわあああああ???!!!」
「え。」
突然ドラキュラの背後に炎が降りかかる。
天下のドラキュラ伯爵もさすがにかなわなかったのか、アナから離れると自分を焼いてくれた火吹き芸人を力任せに投げつけた。
そのすきに。
話題の主、ヴァン・ヘルシングは一人になったアナの身体を抱き上げ。
向かい側のバルコニーへと着地した。
助け出されたアナは、まだぼんやりとしている様子で、ガブリエルはアナに声をかける。
「アナ!しっかりしろ!」
ぼんやりと助け出してくれた相手を見たアナは。
一言。
「黒…。」
「アナ?」
ヴァン・ヘルシングはアナの様子がまだおかしいのでは、と心配したまなざしを向ける。
「あ、ごめんなさい、なんでもな…。」
「ガブリエ〜〜ル…。」
とてつもなく低い声が、静まり返った会場内に響いた。
ドラキュラ伯爵だ。
いつのまにかいつもの衣装に戻っている。
「ああ、ガブリエル…。」
(コートだけしか変えてなかったのかしら…。)
アナが先ほどの名残でどうでもいいこと(伯爵の衣装)に思いをはせたとき。
ドラキュラは、叫んだ。
「どうして白じゃないんだ!!!???」
「「「「「「「「「はあ???!!!!」」」」」」」」(大勢)
その言葉の意味を把握できたのは、会場内でアナだけだった。
「お前たち!!ヴァン・ヘルシングを捕まえて白の衣装を着せろーーー!!」
威風堂々命令するドラキュラ。
悲しいかなその命令に逆らえないその他大勢の吸血鬼たちは、訳も分からずヴァン・ヘルシングを追った。
「逃げましょう!!早く!!服をひん剥かれたいの?!!」
「へ?!あ、ああ!!」
そして訳も分からず別の意味での身の危険から逃げるヘルシング。
その後のカールの発明が、自分の命でなく貞操を守っていたことは…多分知らなくてもいいだろう。
後からそのわけをアナから聞いたカールが、ちょっともったいない事したかなあと、こっそり考えていた事も。
きっと知らなくてもいいだろう。
END
ずみしん様に相互リンク記念小説として押し付けさせていただきました。
伯ヘルです。
おなじみ仮面舞踏会がむちゃくちゃですね(笑)
書いててかなり楽しかったんですが、雰囲気ぶちこわしましてすみませんでした!!
白い衣装着せたいなあ(笑
戻る