邂逅
「また捕われの身とはな。」
「…呂…布…?」
驚愕の眼差しに、猛将の口元は楽しげに歪んだ。
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「久しゅうございますな。呂布将軍。」
「ほう、お前にとっては久しいようだな。
俺は先頃までおまえとともに城にいたが?」その言葉に、劉備は若干驚きはしたが。
もともと劉備にとっては遠い昔に死んだ彼が、この場所にいること自体が、
この世界の時間のねじれを証明していたのだ。
そう驚くことでもなかったと思いなおす。
「…私を捕らえていた頃ですね。」
「…ふん、その様子だと俺は貴様を殺さなかったようだ。」
(そういえばあの時は命の危険があったのだったな。)
どこか他人事のように思い出し、答えた。
「ええ。私は生きています。」
(おかげさまで…とは言えないか。)
あれから自分がほどなく曹操に助けられ、呂布は曹操によって処刑された。
それをこの男が知っているかはわからないが、
無理に話したい話題でもない。
下手に三国一の猛将の逆鱗に触れることもない。
そう思いながら呂布の眼をまっすぐに見た。
(こうして見ると、やはりこの威圧感は恐ろしいほどだ。)
まだ若かった自分は、この威圧感を恐れながらもその純粋さに感心したものだ。
純粋ゆえにその心のままに動き、人につけぬ獣。
だがやはり誰よりも人であり男であったように、劉備は思った。
この誰にも真似のしようのない純粋な闘争心。
食らうでもなくただ闘争を求める、それは人以外はありえない。
「…ほう。俺をまっこうから睨みつけるとは度胸がついたものだな。」
劉備のまっすぐな視線に、呂布はまた笑みを浮かべる。
一瞬気を悪くさせたかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
こちらとて伊達に年を重ねたわけではないからな、とどこか可笑しく思いながら、呂布に言った。
「そうかもしれませぬな。
…私もそれなりに年をとっていますので。」
「そのようだ。
貴様は俺の知る劉備とは違う。」
おや、と思いもう一度鉄格子ごしに呂布を見上げた。
「そうですか。
どう変わりましたか?」
そう聞いた瞬間、呂布の力強い腕が劉備の襟元をつかみ、
恐ろしい力で引き寄せる。
「…っ?!」
驚きと息苦しさで、一瞬目を閉じる。
鉄格子に叩きつけられるように引き寄せられ、目を開けた。
すると唇もふれあわんばかりの距離の呂布の顔が視界に入った。
「…!」
恐れは感じたが、それ以上別の感情が劉備の中に生まれていた。
それは、劉備自身驚いていたが。
懐かしさ、だった。
「…やはり、変わっている。」
呂布の声が響いた。
「今のお前は俺を恐れていない。
俺の知る劉備も、他の人間ほど恐れてはいなかったが…恐れは確かに存在していた。
だが目の前のお前は…。」
「…呂布将軍…?」
「俺に殺されるとも思わず恐れることもしない…。」
どこか苦しげに見えた呂布の顔に、劉備は疑問を感じずにはいられなかった。
「…なぜ私の所に来たのです?」
「……。」
そうだ。彼は今遠呂智の将としてこの世界にいるはず。
一介の人質である自分になんの用があったのか。
それこそ殺すつもりだったのかもしれない。
だが、人質は生きていることに意味がある。
呂布はどうあれ、遠呂智がそれを弁えていないとは思えない。
そうでなければ自分を人質にするはずがないのだから。
すると、もしかしたら。
(…いえば殺されるやもしれんな。)
そう思いながら、劉備は口にした。
「私に逢いに来てくれたのですか?」
そう言うと。
呂布は劉備に無言で口づけた。
それが答えだった。
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「劉備殿!!」
「兄者!!よくぞご無事で。」
「皆、ありがとう…皆のおかげで私は無事だ。」
そして日がすぎで、遠呂智は蜀により倒されることとなった。
晴れて自由の身になった劉備は、ふと捕らわれていた城を振り返った。
「?どうなされた、兄者。」
関羽の問いに少し劉備は微笑んだ。
「いや、懐かしい顔に会っていたのでな…。」
(忘れていたよ すまなかったな)
その表情に寂しさが浮かんでいたに気づくものは誰もいなかった。
end
えーと、文章ではかけなかった補足説明を。
・呂布と劉備は過去一夜をともにしています。
・劉備はそれをこちらの世界に飛ばされてこともあり忘れています。
・呂布はそれを覚えていて、劉備に逢いに来たのですが、まったく別人の(未来の)劉備を見て急に喪失感に襲われます。
・劉備はキスされてそれに気付きました。
そんだけです(笑)
てなわけで超マイナーいってみましたv
呂布って劉備のことを(他武将に比べて)一番好意的に思っていたような気がするんですが…私だけ?(笑)
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