交夢






「醜い子じゃ…!」
「おやめください義姫様!」

ああ、またか。
もう聞きなれた 母上の激昂。

小十郎、もういい。
もういいさ。


おれはもう泣いてばかりの梵天丸じゃない。

奥州筆頭 伊達政宗になったんだ。


#######

『…小十郎…?』

ふと気付くと、暗いところに政宗はいた。
周りを見ても、誰もいない。

立っているのに地面の感覚もない。

ほどなく、これが夢であると気づく。
その時。


『来るでない、醜い…。』

『!』

『お前など…。』

『…何でだよ…。』

なぜ、なぜこの声が聞こえてくる。
この世で一番聞きたくない言葉。
夢にまで追いかけてくるのか。


政宗は反射的に耳をふさぐ。
だがやはり夢なのか。


声は途絶えてくれない。
『お前など…梵天丸など…。』


『嫌…だ…。』


『死んでしまえ。』


『嫌だあぁああっ!!』


痛い。痛い。痛い。

辛い。



  かなしい。


『うっ…ぅ…。』

我慢をしていた涙がこぼれる。
夢だ、夢だ



ゆめなんだ。


『う…っうっうっ…。』

政宗はしゃくりあげて涙を流した。
幼子のように。


なくなった右目をおさえる。


痛い…。




その時。

【…どの…?】

『?!』

聞きなれない声とともに目の前がまぶしく光った。
驚いて顔をあげると。

その政宗の頬に温かさがやどる。
さらに驚いて、政宗は目の前を凝視した。


(だれ、だ?)

驚きすぎで声が出ない。

そこに自分より7、8つは年上であろう男がいたのだ。


茶色い髪が一筋長く垂れており、容貌は逆光でよく見えないが、それでも並はずれて整っているのが分かる。
慈しむ手は、自分の涙をぬぐうように頬を温めていた。


政宗が知りようもない男。
だが、警戒心を起こす気にはなれなかった。


一目で心惹かれていたのだ。


男は少し微笑んで、言った。

【男のお子が泣かれてはいけませんな。】

『っ…。』
そう言われて、急に恥ずかしくなる。

それと同時にでも、と思う。
自分はつらかったのだ。何も知らないくせに、と反発する気持が起こる。

その気持ちが政宗の表情に怒りを浮かばせた。
だが、目の前の彼はひるんだ様子など見せなかった。


そして言葉をつづけた。


【その瞳は涙を流すためではなく 世界を見るためにあるのでござろう?】




『……!』



男の言葉に、目を見開かせる。
まさしく開眼させるような言葉だった。


優しく力強く。


男はまた笑った。


【そうですね? 政宗殿…。】

そう言うと、男は政宗から離れだした。



『ま…って…!』

慌てて政宗はそのあとを追う。
だが、男はどんどん遠くに行ってしまう。


(行かないで…っ)


だが、政宗の足は途中で止められた。
透明の壁に阻まれたのだ。


『くっ…!』

政宗は激しく壁を叩く。

男は壁の向こうでさらに遠ざかって行った。


『待ってくれよ!!行かないでよ!!』



激しい叫びに、男は驚いた顔をする。
だが、また笑った。



そして言った。


【程なく会えましょう。】



『え…。』


その瞬間、男が消えた。



#######


「…っ!」

「お目覚めになられましたか。政宗様。」

「あ…小十郎…。」

目が覚めると、そこは自室。
あれは夢だと、改めて気づく。

「…名前…聞いてねえ…。」
「は?」


「いや、なんでもない。」


「どうなされました。辛い夢でも?」

心配げに見る小十郎に、政宗は不敵に笑った。


「いや…悪くない夢だった…。」


すぐ会える、とあいつは言っていた。

きっとあいつはこれから会う。必ず…。


政宗には確信があった。
あれは自分のつくった存在ではない。


必ず、出会う。




######


「嘘つきやがって…。」

「は?なんでござろう。」




それから政宗が初恋の幻に逢えた。


「どこが程なくだ?10年近く待たせやがって。」

言っても詮無いことではあるが、言ってみる。
やはり、相手はわからぬ顔。


…ではなかった。


「ウソではござらん。
某には程ない時間であったもので。」

「What…?」




「もう泣きはしておりませぬな。」


あの時の幻は、今度は目の前でにこりと笑った。



end


    というわけで、夢ネタなダテサナです。
    幸村サイドも書けたらいいなー…。

    と、思います。
    このままだとなんか不思議ちゃん幸村で終わりますので;


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