その手にひかれて

 

 

 

 

「殿、居るの?」

「凌統か。どうした?」

 

年も明けて数日。
漸く新年な儀式など、凌統に言わせれば面倒な仕事が終わり、
個人的に彼に会いに来る事ができた。

 

公人としては元旦に挨拶は済ましているが。
凌統は私人として、早く彼に会いたかった。

長い戦いの間、一番近くにいた。

けれどいつのまにか、
そう、天下統一という大義が近づくたびに彼の周りには人が増えた。

そのたびにどこか遠く感じていた。

 

そのたびに、この人に一番近いのは自分だと思いたくて。
今日ここに来た。

 

 

天下人として執務に追われているようだったが、少しならいいだろう。

そう思って。

 

声をかけると、いつものように答えてくれたが、
案の定彼は書類に埋もれていた。
少し疲れているのか、顔色も良くない。

ここはそれも口実に、誘い出そう。

 

凌統はそう決意して、改めて言った。

 

少し悪だくみに誘うような笑顔を見せて。

 

 

まだ天下のために立ち始めたあの頃のように。

 

 

「ちょっと散歩でも行かない?」

 

すると劉備は困った子どもを見るような表情で、苦笑した。

 

「魅力的な誘いだがな、見ての通りだよ。
すまないが今は無理だ。」

 

「…見たらわかるっつうの。無理なのは。」

 

当たり前のことを言い聞かせるように言われ、少しむっとする。
その時点で子ども扱いされても仕方ない気はしたが。
言いたいことはそうじゃない、と気付いてほしい。

 

そう思ったことが顔に出たのか。
劉備はまたおかしげに笑う。

 

笑いながら文机から立つと、凌統の傍に歩み寄る。

 

 

そしてふてくされる副将の前髪を撫でるように触れた。

 

 

「…何。」
少し驚いた。

こんな風に触れられるのはいつ以来だったか。
でもそれがうれしくもあり、悔しくもあり。

何より照れくさく。

 

凌統は赤らんだであろう頬を見られたくなくて、少しうつむく。

 

 

「冗談だ。ありがとう。
気を使ってくれたのだろう?」

 

やさしい声に凌統は観念し、顔をあげた。
そこに大好きな笑顔があった。

 

 

「少しくらいは時間がとれる。
 外に連れて行ってくれるか?」

 

 

そこまで言われて、暖かくなる胸のままに、

前髪に触れる手をとった。

 

その温かさにすがるように小さく口づける。

 

 

この手にひかれてここまで来たのだ。

 

 

 

「行こ。劉備さん。」

「…ああ。行こう。」

 

 

今度は俺がこの手を引く。

 

 

戸をあけると沈む夕日が二人を照らした。

 

 

 

END



華春様に押しつけました、凌劉年賀小説です。
設定はエンパで。EDとか編集してよく遊んでますvv

華春様お受け取りほんとうにありがとうございました!!


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